「きゃあああああああああっ!」
シュリの、胸を体を引き裂くような叫びが、何故か、こだまする。
そしてかがんだ彼女の腰の辺りから稲妻の光が辺りに広がったかと思うと、次に広がる光は黒い光だった。
まるで今まさに天に昇っている、煙のような黒い光。
ふっとそれらが消える。ばたりとシュリは上半身を倒した。うつぶせになっていたが、息が荒いことがわかる。体の向きを変えたカーレンは彼女を、目を丸くして見ていた。そして自分の背後に何かがあることに気付いて、くるりと振り返る。
殺気を奪われたスピカと、カーレンの間に、水が浮かんでいた。
雨が途中で止まったような奇妙な水の玉だ。そしてカーレンの方により近く止まっている。
みるみるうちに水は膨らむ。爆発するように巨大化していくのは一瞬だった。そして獰猛な生き物か何かのように水は口を開け、カーレンに物凄い勢いで喰いついた。直前のカーレンの顔にはただ不安に怯える小動物の表情が浮いていた。
「カーレン!」
スピカはようやく叫ぶ。冷たさも殺気も消えてスピカはただ、カーレンのことだけを想った。
カーレンを喰った水はそのまま家に戻るように上昇していく。
カーレンはその中で目を閉じていた。水に閉じ込まれた神聖な何かだった。
そしてひゅうとその水と勢いは池へと収斂されていく。カーレンが堕ちていく。
――海みたいだな。
――そうだね。でも私はちょっと怖いな。
――こわい?
――私は海も少し怖いから。
スピカは己の命に刻んだ使命を忘却し、屋敷の屋根をたんたんと跳ね、そして飛びながら夜の会話を体中に響かせた。当然のように、彼も池へと飛び込んだ。
カーレン、カーレンと、心の中で何度も彼女の名前を呼んでいた。