続・芳流閣の戦い
カーレンの赤い珠は彼女の胸元で赤く発光していた。しかし、この火の海と変化しつつある屋敷の中ではたとえ光と言えど、それよりも強い光の塊――炎に飲み込まれてしまう。あちこちを蝕む炎の光が、熱が、強すぎる。
赤の姫の素足は、赤い珠――陽姫とカーレンを繋ぐ珠の力でか、炎の茨の道でも無傷であった。カーレンの体の線は赤い微光で縁取られ、姫全体を護っているのだった。カーレンは、几帳が乱立しあちこちで炎の花が燃え咲く東対を縫うように動いていく。
杜甫はもっと奥。杜甫の部屋に二三度訪れたことのあるカーレンは、奥にあった彼女の部屋という記憶を頼りに進みに進む。
とにかくカーレンは今、彼女の遺体を見つけねばならぬという、どこか体の奥から呼びかける、生まれる前から決まっている程の強い力を持つ義務に突き動かされていた。
周りは炎。見るものすべてが赤く化粧される。火の巫女でさえも今までに体験したことのない熱を感じながらカーレンはただよろよろと進んだ。
一つの炎の壁となっている几帳に到り、カーレンはその逆上の炎を見据え、守られている何かを覗くため壁の横をすり抜ける。
熱の触手に身を絡まれたカーレンにその瞬間寒気が走った。
カーレンの赤い瞳に、顔が苦痛に歪んで燃え、焦げきった少女の入れ物が無残に映った。宝箱をこじ開けたような傷に、炎が踊った跡がある。
周りの炎が杜甫を囲む。まるで、祈りを捧げる聖女たちのように、杜甫を見守る火。
その体を焦がしたのもそれらの火であるはずだ。しかしカーレンの目にはそれらの火が、とても痛々しい気持ちを抱き、自分を責める為に杜甫を囲んでいるように見えたのだった。
火の巫女には、火が表情を浮かばせて現れているように見える。炎に縁取られた骸と、炎を愛し愛される巫女がいるその場所は、その熱と腐った臭いからかけはなれて、一見神聖な場所に、見る者を錯覚させる。
カーレンの寒さは去り、今はもう天に昇った杜甫を守ってきた死体に近づく。
何百という人の死を見送ってきた彼女でさえも、こんな間近で焼死体を見ることは無かった。
そして、その焦げ切った、黒しかない世界にぽつりと光る何かを見つけた。
星のように思えたそれをおずおずと取り上げ、握れば欠けてしまいそうなそれをそっと、両手に抱えた。