「お前!」


 シュリは恐怖という名の冷気を抑えて屋根を駆け、玉響の胸倉を掴んで、激怒した。

「なんで! なんでそんなことをした!」
 玉響の嗤いはしかし、納まらない。
「この家の者の命を落とす必要が、どこにあるっていうのよ!」
 シュリの怒りが玉響の細身を揺らしても、玉響は涼しい、しかし赤い瞳でシュリを見下していた。
 シュリは歯を食いしばった。柳に風なこの男への不満と、予想外の大惨事に、自分が抱える途方もない無力さをむざむざと見せつけられてしまった。


 シュリは口がわなわなと震えるのを感じた。しかし、叫ぶ。


「あたしは――あたしたちは確かに、この女は嫌いよ、権力をほしいままにしてる奴に妹をやるなんて!
 でも、でもそれと命は別でしょう! あたしたちは財宝さえ手に入ればいいのよ!
 あんた、まさか最初からこうしようと思って、この話を持ちかけてきたって言うの――」


 そしてシュリは玉響から手を放してしまう。まるで泣いた子供のような哀れな顔を一瞬のうちに手に入れたシュリは、李白ともう一度目を合わせた。


「――泥棒だからね、あたし」


 ぽつりと、申し訳なさそうに言う。風が強く吹いていれば、聞こえないくらいの小さな声だった。


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