その時再びぬるい風が吹いてきた。
シュリのへその上が見えるように、彼女の上着はへそ周囲が鍵穴のように開いている意匠になっていた。衣服の少しのズレがその領域を不完全なものとしていたが、今風が吹いたことで直ったようだ。
李白は彼女のへその上に浮かぶ黒い痣に目が行った。
不思議な形をしている。何かの動物を表したように見えた。
刃の切っ先のような左の線は、右上に来てから円を描いている。
李白は何処かで、遠い昔に似た記号を見た気がした。そして、思いだす。
陽姫と十二宮のこと。
十二宮が持つ紋章と宝珠のことを。
李白は目が覚めたように、あらためてじいっとシュリだけを見つめた。
「――どうして、そんな目で見ているの」
玉響は後ろを向いてしまい、屋根の端に再び赴こうとしていた。
「あたしたちみたいな、社会の最下層で生きている奴らが、
こんな当たり前のこと言うのは、悪いことなの? おかしいの?」
「いいえ」
呆然としている李白はただ頭を横に振る。
「あんたのこと嫌いとか言ったから?」
李白はさほど表情を変えずに見つめていたのに、シュリはそう取る。
「違いますわ」
伝われ、とはっきり言った。
「ただ――もしかしたら、あなたは、そう、何か――」
李白の言葉は煮え切らない。
あざという名の紋章に彼女は気付かないのだろうか。しかし、李白の憶測である。その形が星座の紋章とは限らないし、李白のおぼろげな記憶は頼りない。珠の存在も怪しい。
だが李白は何かを感じている。
非常に微妙な線上に立って、少しでも何かが邪魔をすればすぐ繋がりが切れてしまう――そんな危ない、繊細なものを。
うまく言いきれない何かを。
「――――何か」