「カーレン」
「スーちゃん。あのね」
シュリは再び、右手のひらを見つめた。
後ろを見ようと振り返る。背を向けた玉響はこちらに視線をよこさない。
シュリは自分の血流が早く己を流れていくことを静かに感じ始めた。……何かがおかしいと。
「どけ」
カーレンは首を振り、ためらう。
「嫌な予感がするの」
スピカは埒が明かないというように前に進み、カーレンはその度後ずさりをする。
「カーレン。そこをどけ」
「スーちゃん」
カーレンはしっかりとスピカの瞳を見つめ、唾を飲み込む。
「スーちゃんが今ここでそうしたら、スーちゃんは戻ってこられなくなっちゃう!」
カーレンの叫びがシュリを震えさせる。
今までに一度も感じたことがない緊張や興奮が全細胞にしみ込んだ。
一つ一つの核が反応しているかのような熱さをただシュリは受け止める。
「いい加減にしないと、お前も――殺してしまうぞ! そこをどけ!」
スピカの目から冷静さは零れ落ち、冷徹な瞳がはりついた。カーレンの目は赤く厳しい。自分の命を投げ出してでも、スピカを止めるほどに優しいものでもある。
「いやだ! どかない!」
「カーレン!」
その時、初めて男が振り返った。
白い髪と白い着物で、空と同化している。
目だけが赤く光っていた。
細い目からまるで血が垂れているようである。
そして、スピカを嗤う。
スピカの全てを吸い込むような嗤い。
スピカは、止まった。