「あたしにも本当の妹みたいな子が、一人いる。
 鷹にさらわれた何処の子だかわかんない子が、あたしたちのお姫様みたいに大事で、
 そして、あたしたちをいつも心配してくれて労わってくれる、
 あたしたちにはもったいないくらい、いい子よ」
 一歩シュリは歩み寄った。


「あんたにも解るでしょ。
 自分の身をもって守らなくちゃいけない存在がいるってこと。
 ――なのに、なんで」


 全身を緊張で縛り、シュリは李白を睨んでいた。李白の白い胸に、罪を焼きつけようとするかのように。しかし、それが段々と怒りや憎さというものから次第に、一種の悲しさを帯びるようになっていく。
 李白は、それに気付いているのかいないのか、
「それは――こちらの言いたいことですわ」
と冷静な声で伝えた。
 しかし、体は冷静とは程遠い別の感情によって震えていた。


「何故」
 泣きそうな声だった。


「何故、そう仰るあなたが、あなたたちが!
 わたくしの妹の、妹の杜甫を殺したのですか!」


 その事実をやはり認めにくいのだろう。李白は体が散り散りに引き裂かれるように声を発した。
 一声一声に李白の叫びが届かない祈りとして何百も封印されている。



「――――え?」



 シュリはまたしても全ての緊張をほどき、きょとんとして李白を見つめた。
 李白も、幾筋かの理屈が通った答えが返ってくると思っていたため、たった一声の返事に体の震えが止まるほど驚いた。


「妹を――杜甫を、殺した?」


 その時、にゅうっと入り込んできた――殺気に似た冷気を二人は感じ、与一も感じた。
 鳥肌を立てたシュリが己の背後を振り向くと、柳の如き男・玉響が妖しく嗤ってぬうと立っていた。

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