「それで?」
「やっぱり、条件が厳しすぎる。一週間で、そんな……」
下校時、真由美ちゃん達と別れると私はまた真っ暗闇の世界に戻ってきた。
そこで何年も暮らしているように、完全に寛いだ顔をしたアサイくんが待っていた。私が何を思っていたか解っているようで、つまらなさそうな顔をしている。
「ううん、条件とか、それも確かにそうだけど、でもそういうのじゃなくて、その前提にあることが――」
積極性のない、私。もし私が男子だったら、気軽に声をかけられただろうか。
「そう言うと思ってた。さすがに厳しすぎるよね」
「え?」
アサイくんは最後まで聞かない。つまり「条件が厳しすぎる」それだけを聞いた。
「こ、これで終わりっ? そんなの――」
やっぱり、嫌だった。――浅ましいって自分でも十分わかっている。それで三十年もこの世にとどまっていたんだし。でも、それでも私は、「夢」を見ていた。
いつか、物語にも負けないくらいの恋が出来ると。
恋を、すると。
「条件を変えよう。
あと六日以内で、誰か一人にでも、本気で恋をするんだ。
これ以上無いってくらいの、究極の恋をね。君なら出来るだろう?」
「……告白しなくてもいいの? 声をかける必要もない、ってこと」
「ん? まあそういうことだろうね」
それなら、出来る。私は息をのんだ。
誰もが一度は経験する、片想い。私には過去の記憶が残念ながら無いからよく解らないけど、きっと中学時代は片想いばっかりだった。とすると片想いが得意ということだ。よく考えたら、人に自慢できるようなことじゃない。
でも、人魚姫だって、王子様に片想いしていた。人魚姫以外に、世界の神話やお伽話には、片想いは一杯あるはずだ。だって恋は、神話の時代から、いや、この世界に二つの違うものが出来たその瞬間から、存在しているんだから。……なんて、言い過ぎだけど。
だけどこれくらい意気込まないと、生き返れない。
「よし。今度こそ、頑張る!」
その意気だよ、と初めてアサイくんはにっこり笑ってくれた。