一年四組は、女子が若干多いくらいの、ごくごく平均的な男女比率を持つクラスだった。

 私は授業そっちのけで、きょろきょろと周りの男子を見ていた。遊んでいそうな子、真面目そうな子、独特の趣味を持っていそうな子、スポーツマンな子、ちょっと不良という感じの子……いろいろいる。個性が溢れているんだ。何も、このクラスの子に限定しなくてもいいけど、もしかしたら私の運命の恋人は、今ここにいるかもしれないと思うと、無性に緊張が体を走った。

 まずは、じっくり様子を見た方がいいのかもしれない。

 お昼ごはんは私を含めた真由美ちゃん、美佳ちゃん、香乃ちゃんの四人グループでとった。どうもこのグループで行動することが多いみたい。うん、こじんまりとしていて、無理に神経使わなくていい。私は購買で買ったパンをもそもそと食べる。アサイくんだろうか、いつの間にか可愛い財布――お金まで用意されていた。ここまでしてくれるんだから、何としても条件はクリアしなきゃ!


「ねえ、みんなは好きな子とかいるの? 気になる男子とかっ!」


 直球過ぎるかも知れないけど、私には時間がない。これも「様子見」の一つ。

「えー? なに急に」
「宝子ちゃん、今そういう話してなかったよねー」
「びっくりした」


 案の上、みんな場の雰囲気に合わせてよと言わんばかりの目つきで私を見た。うう、たった四人でもやっぱり気を遣わなきゃ駄目なんだ。人間社会はそう甘くないぞ、と誰かに言われているような気がしなくもない。

「あ……あははー、ごめんごめん」
「でさー、それでその後……」

 みんながするお喋りは、色恋沙汰なんてとんでもなく遠い方にあるような、可愛い話題ばかりだった。
 別に恋に逃げているとかそういうのじゃなくて、今は興味無いです、と押し売りをやんわりと断るのに近い。彼女達から男の子を紹介してもらうとか、情報を引き出すとか……そういうのはちょっと難しそうだ。悪い子達では全く無いのに、これは困った。
 やっぱり、私独りで動かなくちゃいけない、ということだろうか。
 彼女達にばれないように、教室全体に目を配ってみる。

 男子と女子が会話して一緒にお弁当をとっているグループもあれば、男子達は男子達で集まっているグループもある。お昼休みの教室に、クラス全員がいるというわけでもない。体育館や運動場にスポーツしに行っている男子もいるだろうし、もう彼女がいる男子もいないとは限らない。屋上とかで二人っきりというシチュエーションもある。


 私は――急に臆病になる。


 アサイくんの前ではあんなに大見栄切ったのに、私から動くことが……出来ない。
 だって急に男子に話しかけることなんて、出来る? 四月で、友達募集中な頃ならまだしも、今は七月くらいで、真由美ちゃん達や他の子みたいにクラスにグループも出来ている。


 ……でも私、ユーレイなんだし。そんなこと気にしなくても……。
 いや、でも、そんな、男の子に声かけるなんて――


「はあ」
「ん? どうしたの?」
「あ、な、何でもないよ」


 力なく、首を振る私はきっと、疲れた笑いを浮かべている。

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