きれいな人、という印象がまず浮かんだ。
髪の毛は真っ黒ではなく色素が薄く、どちらかといえば茶色に近い。目の形が黄金比でも持つんじゃないかと思えるアーモンド型、それを縁取る睫毛もぴんとのびていて、繊細だ。浮かべる微笑みも、どこか脆くて、だからこそ美しい。
「あ……あの、その、本当に、ごめ、ごめんなさい」
自分の顔が赤らんでいくのが、見えなくてもわかってしまう。見惚れてしまい、数秒くらい無言だったから、尚更恥ずかしい。男の人――先輩だろうか――は困ったように笑った。
どうしよう、その笑顔にも見惚れてしまう。
胸を締め付ける何かが、胸自身から溢れ出る。
これは――もしかしなくても――
「陽一? 早く、行こうよ」
「ああ、ごめん菜緒子」
彼は、前方に向かってもその笑顔を呈した。私は振り返る。
勝気な目をして、黒い長髪を靡かせた女の人が腰に手を当てて待っている。美人だな、と思ってしまう。紅梅の色を持つ唇はきっと真一文字に結ばれ、怒っているように見えた。男の人――陽一さんが彼女――菜緒子さんのもとへ追いつくと、彼女はやっぱり少し怒ったように何かを言うが、すぐ二人は手を繋いで、向こうへ行ってしまった。
呆然と、立ち尽くす。胸の締め付けは、まるで足のしびれが収まるみたいにすっと消えていって、かわりに胸には空しさが去来した。
意味もないのに、リノリウムの床や、白っぽい壁や、灰色の天井を眺めまわす。そして思う。
私は一体、何がしたいのだろう。