うららかな陽光。少し埃っぽい空気の中、道路をはしゃぐように駆ける。
 学校までの坂道にはたくさんの桜が並んでいる。
 まるで雨のように桜の花びらが降りしきる中、私は目をらんらんと輝かせながら走った。小鳥たちのさえずり。穏やかで暖かな風。見上げれば桜の天蓋。目指す先にあるのは私の学校。
 少し立ち止まって、ゆっくり深呼吸。空気も桜色って感じがする。ああ、春だなあ。


 うーん。
 今朝は、特別気持ちいい。


 こういう日はきっと、素晴らしい出逢いのある一日になる!
 高校三年間を一緒に歩んでくれる素敵な恋人と出逢える日に――
 うん!
 絶対に今日、私は運命の恋をする!
 背伸びをして私は、桜の枝の隙間から見え隠れする太陽にそう誓った。









「よし、その為にはまず学校に行かないと始まらないよね」
 独り言を言ってしまったのは、周りに誰もいないからだ。……と思ったら、私の目の前をするりと通り抜けていく人がいた。……うわ、恥ずかしいな。聞かれてたかな。
 でも、心の声までは聞こえてないから、いいか。

 変なところで安心した私は手始めにその人に声をかけてみることにした。男の人。先輩だろうか――緊張するけれど、恋するにしたって人間関係を円滑にするにしたって挨拶は大事だから、と鼓舞する。
 その人の隣を走って、大きく「おはようございます!」と挨拶した。その人は少し伏し目がちに歩いていたけど、そこで顔を上げた。


 全体的に体の色素が薄い、どこかやる気の無さそうな顔をした、私と同い年くらいの男の子だった。




「――おはよう」







 困ったように笑うその人を見て、私は遠い何処かで、かつて恋をしたような気がした。






 その時私は、――本当に、突然に。
 だけど、決まっていたことのように、恋に堕ちた。

(了)

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