「君を見かけるたび、さっき言ったことを、言いたくて仕方がなかったんだ。余計なお節介に過ぎないけれど、真実に近いことだったろう?
でも、恋に恋して、夢にひたむきに生きる――まあ死んでるけど、そんな君を見ているのも楽しかったから、今日まで言わないでおいた」
ここで私ははっと気付いた。
私の姿は無論見えないけれど、生き返ることを諦めた今、多分消えている最中のはずだが、アサイくんの足までもすうっと消えていっているのだ。彼は幽霊と言えど足はあった。だけどそれが、霧が薄れていくように無くなっていき――まるで絵に描かれる幽霊みたいになっているのだ。
「アサイくん! どうして? 消えて……」
「そりゃあ当然だよ。君に干渉して、生き返らせようなんてこととしたから。
そもそも無理があるんだよね、僕も無事で君も生き返って丸く収まるのって」
急に心にのしかかるものを感じる。これは、責任だろうか?
「――私の所為? 私、生き返るの諦めたのに……そんな」
しかし彼は違うよ、と柳のように首を振った。表情は変わらず、悲しい笑顔を浮かべている。怒りの要素は見出せない。むしろ、私にそんなに気に病むことはないと言ってくれているように見えた。これが私の目の錯覚でないことを祈りたい。
「全部、僕の勝手さ。
それに僕、かなり長い間ユーレイやってきたもんだし、何にでも永遠なんてものは無い。
でも――そうだね」
アサイくんは私の顔を今更ながらにじろじろ見た。こんな状況で、どんな顔をしたらいいものかわからない。というか私は私が見えてないけど、彼は私のこと見えているのかなと大分ずれたことを考えていたりもした時、彼は言った。突然だった。
「よく考えてみると、僕は結構、君が好きだったのかもしれない」
とても澄んだ目と、凛とした、だけど悲しい笑顔だった。
「え?」
「だからこんなお節介をしたのかもね」
悲しい笑顔はそこまでで――困った笑顔を、最後に浮かべる。
彼の姿はもう、首辺りまで消えかかっていた。彼が消えた時、私も消えるのだろう。お終いなのだろう。
アサイくんは、何と言った?
私のことが、好きだと言った?
こんな、浅ましくて自分勝手で救いようのない私を――好きだと言ってくれた。
生き返らせようとしてくれた。大切なことを、教えてくれた。その所為で――
二人は消えていく。世界が、終っていく。
――嫌だ。こんなの。
アサイくん、そんなの。
反則だよ。
「待って! いかないで! もっと――もっと!」
話を。謝罪を。
二人でいる時間を。
愛とか恋とか、そういうくくりじゃないことでもいいから、彼ともっともっと、いろんなことを話し合い、ふれ合える時を――。
お願い。
真っ暗だった世界は、アサイくんが消えるとともに、真っ白になった。
そして私も――宝子の幽霊も、消えた。