――この一週間や、ここで体験したことは、みんなみんな、忘れるだろう。
宝子じゃない、新しい人間になるんだから当然だ。もしかしたら女じゃないかもしれないし、日本人じゃないかもしれないし、その前に人間じゃないかもしれない。長い間みっともない姿を曝していたんだから、動物になっていてもおかしくない。何でも、動物に生まれ変わることは、輪廻転生だったか何かのランクが下がることらしい。
でももし、人間になるなら、そして出来れば女に生まれてくるなら。
次の人生でも、恋について、人を好きになることについて教えてくれる、アサイくんのような人に出逢えたら、どんなに幸せだろう。その幸せを得られればいい。
――いいや。違う。そうじゃない。
自分で、気付ければいい。
それがたとえ、恋に何度も何度も敗れた後の、負け犬の遠吠えでしか無いとしても――。
私には、神様がそっと囁いてくれた秘密のように思えたから。
「なあに、どうってこともないことさ」
「そんなことないよ。……ありがとう。
私、次の人生では――前みたいに無理にがむしゃらになったりしないよ。
本当の恋に、おちるよ。
本当の、たった一つだけの、これ以上ないってくらいの恋をする。
だから、いつまでもいつまでも待つよ。
大好きな人を、その恋におちる瞬間を。
そりゃ、時には前みたいにとにかく走っていくことも必要だと思うけどね」
アサイくんは笑っていたけれど――そこで初めての感情が、表情として現れる。
悲しみ。
「よかった。君がそう言ってくれて。――僕ももう、終わりだからさ」
「え――?」
終わりって、どういうこと――そう言う私の声は消え入りそうなくらい、小さかった。
アサイくんはその表情のまま、続けた。私のその言葉を聞いたかどうか、わからない。