翌日カーレンの家に新生児誕生の知らせが飛び込んできたのは、日がようようてっぺんに昇っていく頃だった。
北の岬のトーレさんの家だ、と知らせにきた、やや興奮気味の青年は伝えた。カーレンの目が丸くなり、そして笑窪が浮かび、目に喜びの光が射すまで一瞬だった。そしてスーちゃんっと言って抱きついてきたから、ことを知らないスピカはかなり驚いた。苦笑しているハーツが、先に行ってるよ、とやや足取り軽く家を出ていく。
「めでたいことです」
そのことを知ったシリウスは笑顔で言う。彼には子供はいない――だから、羨ましい分、一層嬉しく感じていた。
「よかったねっ、スーちゃん?」
「ん――ま、そりゃあ」
慶事なのだから、とスピカは思う。
そしてカーレンの想いを知った彼に次に思い浮かぶ、新たな生の喜び。
糸が新たな針の穴に通る。
ティヌーの祖父が死に、そして同じ島で新たな生命が誕生した。全く別人同士の糸が繋がる。
そして、それはこの島も含め、海の向こうの和秦などの国々も全て内包した世界の、全ての人の命の糸と繋がり、大きな網になる。死があり、誕生があり、死があり、生がある。それらを繰り返し、何度も糸は絶えながらも必ず次に続く命により糸は甦る。
父も母も姉達も自分が繋いでいる。
スピカは今、生きている。
「赤ちゃんかあ。これから家の人達は大変だあね」
「オーレさん、子供いるの?」
「うん。十歳で、ちょーっと人見知りするんだけど。まあカーレン君とならすぐ仲良くなれるよ」
にこにことした顔を崩さずオーレは会話を楽しむ。
彼でも――スピカの腕を放さなかった彼でも、いや、だからこそ――命を紡ぐ。
スピカは、狸親父なんて言ってすまなかった、かもな――とオーレを少し、見直した。
スピカは先日のオーレの独白を、やはり忘却していた。カーレンがスピカの手をひいてシリウスと共に出て行く。オーレは一人海を眺めてから、後を追って歩き出した。海は変わらず蒼く、彼の心には痛いほど染みた。
抱きしめることも出来ない母なる海に、自分の世界が抱きしめられていることを知る。
そのことが、オーレにとって自分を責める武器になり得ることが、どうしようもなく辛かったのだった。