動く天空、廻る星宿




 死者を焼く真っ赤な炎の熱が、水平線をぐにゃりと揺らしている。



 カーレンの薄い金の髪が、部分的に赤く染まっていた。それはカーレンの体を這う赤い蛇の続きのように不思議な紋様であった。火葬の時のみに髪を染めるということだ。
 服は赤、目も赤、炎も赤、全ての人の服も赤。
 この島の喪服は赤。
 スピカ達も赤の衣を借りた。仕舞には、世の中全てが真っ赤になってしまったかのような感覚が生じてきた。誰しも頭から炎を吹き、回転し、燃え尽きてしまうような、狂った感覚だった。炎の前に跪くカーレンの顔は見えない。

 ここは二人が出逢った場所。あの時のカーレンは無邪気に笑っていたが、今はどうなっているかスピカは知らない。音は相変わらず消えていた。
 呼吸の音、涙の音、炎が死者を灰に変える音。それだけが辛うじて聞こえる。


 ――スーちゃんがそこに行くにはまだ早いから。


 カーレンの声がスピカの脳だけに響く。
 ゆがむ水平線の彼方に、幸せの島なんて無いことは、わかっている。
 けれどスピカは惹かれた。その度にカーレンが自分を呼ぶ。




 カーレンは火葬が終わってからも多くの人と話をしていた。時折見せる笑顔が、双方を和ませる。その回数もやがて多くなっていった。昨日涙を流したティヌーでさえも、笑顔とまではいかないが、穏やかな顔になっていた。
 確かに人が死んだのに、人々が時を和やかに過ごしているのは、また容赦なく始まる命の営みに備えるためだろうか。

「和秦に戻るのは、二日後くらいにしようか」

 ぼーっとその様子を眺めていたスピカにオーレはそう声をかけた。少し間を置いてからやっとそのことに気付いたスピカは、いい加減な生返事しか出来なかった。
 カーレンを伴い和秦へ戻る。スピカは当初の目的をぼんやり思い出す。


 つれて行く?
 つれて行くだって? あの巫女を?
 多くの人の悲しみを、後悔を、ゆっくり癒す役目を持つ彼女を?
 強制的に与えられた運命の名において、この島から彼女を搾取しようというのか?


 スピカはそこで考えることを止めた。体がなんだか熱く、気分が悪くなったので、カーレンの家に戻った。その時にカーレンと少し目が合った。すぐにスピカは目を逸らしたが、あの赤い目と優しい視線が昔、独りぼっちの自分にあったならば――その考えが、スピカを徐々に支配していった。

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