「――カーレン。お前はここに残れよ。
お前はここに必要なんだ」
しかし、彼女は首をかしげる。
「なんで? スーちゃん達は私を探しにきて、そして私がいなくちゃだめなんでしょう?
――スーちゃん?」
スピカの体は震えていた。
心から込み上げる何かがスピカを揺らしている。
「死の悲しみから、みんなを救ってやれよ」
そして、スピカの心の中にいる、幼いスピカが手をのばす。
あの頃も届かず、今もまた届かない、太陽のような救い。
心は冷たく育ち、自分は多くを欺き、多くを殺し、しかし最大の敵を殺せなかった。
オーレの手が自分をここへ誘い、そして今、カーレンを眼前に据えている。
あの頃届かなかった救い。
スピカは、ゆっくり立ち上がる
「――僕の家族は殺された、十年前に」
カーレンはその問わず語りを聞かずにはいられず、同じように立ち上がり、じっと耳をすます。
「僕だけが助かった。陽姫の力だ。
だけど陽姫のことも十二人のことも何もかも知ったのはつい最近のことだ。
それまで、僕はただ、仇を殺すことだけを考えて生きてきた。
どうして、何で、家族が皆殺しにされて、僕だけが生き残ったんだとも!
それが辛かった。本当に本当に辛かった、寂しかった、悲しかった!
仇を殺してから、自分も死ぬつもりでいた――」
放せっ――自分の声が甦る。あの時も今のような夜だった。真っ暗な闇がスピカを支配していた。
行くな! 今はまだ早い――オーレの声がする。
「カーレン、お前みたいな存在がもしいたなら、苦しみは和らいだかもしれない」
心から太陽を隠して、十年生きることはなかっただろう。
「だから、だからお前はここにいなくちゃいけない。
死から……死から、人を救えよ!」
スピカの顔は、十年分の涙で美しく濡れていた。ぬぐうことはしない。
カーレンは、死者に見せたあの優しく穏やかな顔でスピカの手を取った。熱い白い手。
そして言う。
「スーちゃん」
顔と同じで優しい声で自分を呼ぶ。