ここにいるのは、苦しんでいるのは、人間じゃないかとスピカは思う。
 何ら自分と変わらない一つの生物だ。しかしスピカの仇は、その一つの生物に必ず繋がっているのだ。
 スピカの生きる理由は。


(生きる理由?)


 スピカは己に問うた。確かに仇討の為に十年間生きながらえてきた。
 しかし、それは死ねない理由にはなっても、生きる理由にはならない気がしたのだ。
 生きる理由はどこに――そう思った時、スピカは左手首を見ていた。
 約束という結び目を持つ黒い紐がある。


「お前たちの呪いは、決して解けまい」


 空間に赤が減っていく。女は目を閉じる。


「妾は、――私はすぐに、甦ってやるわ」
「あっ」
 チルチルが傍に寄った瞬間に、女の体が消えた。
 風に吹かれたように、水が弾けるように、花が散るように。



 巨大な木の根が、まるで棺だ。



「うわあ」
 あああッ、とチルチルは最も悲しい涙を流してしまう。
 ニコがその傍に立った。ニコの目にも、大粒の涙が溜まっていて、二人は並んで泣いた。
 チルチルの右手とニコの左手が結ばれた。
 二人の手中の珠が穏やかに光り合うのを、大人達は見守るしかなかった。


        9
第八話に続く
プリパレトップ
novel top

inserted by FC2 system