鉄の扉はやはり重く閉じられていて、不細工な錠前がやる気のない番人のように垂れ下がっていた。しかしニコの珠から出る光は重い扉を貫いて内部へ進んでいるようだ。遠くから見た時は小さいと思っていた扉や宝物庫が、実際は幼い二人の何倍もある大きさだ。
「やっぱり鍵がないとっ」
 チルチルが鍵を取りに引き返そうとして何かにぶつかる。ニコだった。
「いてて……」
「あーっ、ニコくんっごめんなさいっ」
 大丈夫とニコは顔をあげて目を細めた。そして扉の前を注視する。ニコの左手から射す光はまっすぐ突き進んでいた。二人は扉に近づく。ネフェレも二人が見える所までやってきて一息つくと、扉の方を見た。
 三人の視点が一つに重なったその時、ネフェレも、ニコとチルチルにもぼんやりと見えた。


 光がぽつぽつ現れ、うっすら人型になる。色も体の線もあやふやではっきり見えないが、その人型の持つ暖かい心ははっきり感じ取れた。見えないものを信じられた。


 和秦の城の中心で微笑み、ニコ達を、里見を、民を守る、
 見えなくても感じられるその存在が、扉の錠を落とす。
 ニコとチルチルに、微笑したかのように見えた。


 錠は鈍くて重い音を立てて地に落ち、扉が開いた。
「陽姫だ……」
 ニコは放心して呟く。チルチルには誰のことだか解らない。うんと昔から自分のことを知っているような人かも知れないなと思うに留まった。チルチルにとっては陽姫の出現より、宝物庫に待ち受けている何かが、チルチルの体中を駆け巡る躍動となる。
「チルチルちゃん!」
 それが体内から飛び出す。チルチルは駆ける。


 光の導きを追う。宝物庫の中は薄暗いどころか真っ暗で、ろくに片づけられてもいない為に埃っぽく、何度も躓く。その度チルチルは立ち上がった。光が示す元へち強く手を伸ばそうとし、少女の体は動く。
 光が弱まっている所があった。箱をぐいと動かしてどける。また箱や袋が出てきたがチルチルは何のそのと、わけ入っていく。
 隅に、小さな箱がある。チルチルは力がすうっと抜けたのを感じ腰を下ろした。よろよろと木箱を取る。傷ついた動物を労わるような仕草だった。そして開けて、中身を右手に載せる。


 青い珠が、光り出す。白い何かの紋章が浮かんでいるのが解った。


 そして闇に青い光が走る。

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