いつか帰る箱庭



 ある日の暮れ方のことである。


 瀧田城から遠く離れた、しかし同じ和秦の関東地方に、とある寂れた神社がある。
 鳥居も狛犬も石畳も植物も、全てがぼんやりするほど霞んでいる。東の方向にあった、椿の木も葉に活力がなく、くすんでいる。隣の梓の木が――あらゆるものを虚ろにする、その寂しさに揺れた。
 がさがさ、と一際大きな音が鳴る。それは連続し、そこに聞く者がいれば大きく不安にさせられただろう。
 梢がかすれるような、乾燥的な音しか生まれなさそうなその空間に突然、どびゃっと粘着質な音がした。それは、馬や牛が生まれ落ちた音と似ている。
 実際、椿の木の下で倒れているモノは今まさに母体から抜け落ちたかのように全身が液体に濡れて奇妙に、ぬめぬめと光っているのだ。長い黒髪はその液を吸って重たそうであり、モノを縛る鎖の様でもある。


 モノは、女だった。
 肌は病的に白く、体も折れそうな程細く――そして目は、赤い。


 日が沈む。女は瀧田城の方向を見つめ、憎々しげに嗤った。
 黄金色の今の空――その空の下にいる者は、まだ、何も知らない。




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