美しい夕焼けの茜色が家々の壁や瓦を照らして、ぼつぼつと浴衣姿の子供達や大人達が花火大会の会場である川辺へ向かっていく。
 唯花はドレッサーの鏡の前で髪をセットしている。結ったおだんごにかんざしを付け、両こめかみの辺りに小さな花の髪飾りをつける。そしてよく自分の姿を確認してみると、白が基調の浴衣にそれらのアクセサリーはまずまず調和していた。短大の友達と花火に出掛けるのだが、この姿は恋人の、遠い長野の空の下にいる篠孝に見せてあげたかった。最近の携帯電話にはカメラが付いているのが多いが、唯花の携帯電話にはまだついていない。
「いいや。デジカメで撮ってもらおーっと……」
 そして玄関へ降りてくると、そこには忠道が珍しい浴衣姿で煙草を吸ってくつろいでいた。
「兄さん。どうしたの浴衣なんか着て」
「花火に行くんだ」
「一人で?」
 唯花は特に気にしないで下駄を履く。赤い鼻緒が気に入っているものだ。
「違う。仕事だ」
「教師の?」
「違う」
 そう忠道が答えた瞬間に、唯花は理解した。



 失くしたものを、探し出す仕事。まだ見ぬものを探し出す仕事。
 なくなってしまうものを、見つける仕事。



 唯花も、忠道も、火崎家に生まれたときからその仕事が義務だった。李亜も、篠孝も、全国に散らばる同じ仲間も、その仕事を密かに依頼されながら全うする。探し出す、見つけ出すだけが仕事ではない。唯花が持つ、あるいは忠道が持つ不思議な力で解決できるものであれば、どんなことでも仕事になる。



「手伝えよ」
「なんで。兄さんのでしょ? 私、約束あるんだから」
「俺と李亜のことを知りたいと思わないか」
 李亜、と京都にいる女性のことを名前で呼んだ。忠道にうなじをみせていた唯花は驚いたがしかし振り返らなかった。彼女の名前を幾分か優しく言った気がする。今まで彼女のことを、名前どころか苗字でも呼んだことのない忠道の顔を見るのが、妹の自分が何故か恥ずかしくて癪だった。



「やっぱり、好きなんだ」
「手伝ってくれればわかるさ」



 忠道にしてやられたような気がして唯花はふてくされた顔をしながら、いつのまにか自分の脇を通って外に出た兄の姿を追った。





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