「仕官したとこの上司がよー……まあ一般にも悪い奴でけしからん奴だったんだけど、
俺の育ての親を嫌ってて、そんで俺の容姿がこんなんだからよ、ますます嫌われちまって……
獄舎番をやらされたんだな」
獄舎番。罪人に拷問をする役目である。
気さくで、優しくて、頼れる彼が、そんな所にいたのかと二人は思う。
「――すいません。あの、僕のせいで嫌なこと」
「いいって。かまわねえよ。
けっこう最近のことで、思いだしたくもねえってのに、なんだか懐かしくなっちまってさ」
与一は変わらず二人に笑ってみせた。
今度は空ではなく中空に目を向け、特に何を見るでもなく、段々彼は目を伏せた。
「人の思い出は、ただ楽しくって素晴らしいものだけじゃなくて、
苦しくて嫌なことも残るのが常だ、仕方ねえ。
それにその仕事を放棄したおかげで信乃と――」
言いかけて、与一はがばと伏せた目を開いた。
そして疾風の如き速さでスピカとカーレンを抱えて西対から飛び降りた。
その刹那、ばあっと西対が光った。それは光ではなかった。
突如生まれた火が瞬時に炎となり、木造の家を燃やし始めていた。
「なに?」
「――来たか」
与一はゆっくり体を起こし、三人を囲む黒服の、数名の男たちを見渡した。いつのまに、とスピカは思ったが、躊躇する間もなく、彼は鋭い眼光を飛ばす。
どうも、あちこちから火が上がっているらしい。この黒い集団が放ったのかと与一は思う。
「さぁて。宝は、きっちり守らせてもらうぜ」
与一は不敵に笑って、指を鳴らした。