炎の訪問


 その静かな夜、李白姉妹は枕を並べて、同じ布団の中で眠った。月と星は緩やかに沈んでゆき、東から日輪が起きてきた。山の稜線自体が光を放っているようにも見えた。

 李白邸の食事を担当していた雑役が田舎へ帰ってからは、料理好きと自称するカーレンが好んで三食作っていた。それが意外にも全員の口に見事調和、美味しかったのである。
 しかしその翌朝、(くりや)には李白もいた。民衆が使う割烹着を着、カーレンと談笑しながら調理を進めていたのだ。

「いつもカーレンさんに作っていただいておりますので――
 本日は微力ながら私もお手伝いさせていただきました」

 と上座にいた李白は少し頬を赤らめて言った。
「お姉様はほんとうに何でもお出来になるのね!」
と杜甫。李白は喜ぶ妹を隣に、上品そうにはにかんでいる。そんな表情を初めて見た一同は、花火を除いて皆心持ちが軽くなった。

「お手伝いなら杜甫にも出来ますでしょう」
「でもお料理は無理ですわ」
「李白さん、そんなことないですよ。
 李白さんは手先がとっても器用だから、丁寧に進められると思ったし、
 盛り付けも綺麗にできるとも思いましたよ。
 今度李白さんだけで作ってみてくださいね」

 カーレンはにっこり笑った。彼女は李白のことを「様」と恭しい呼び方から次第に変化させ、「さん」と今日呼ぶように至った。格差も身分も全てが意味を持たないような自然体の彼女だから出来るのだろうとスピカは彼女の横顔を見ながら思った。

「そうですわよお姉様。じゃあいただきまあす」
「お行儀が悪いですよ」

 ふふと苦笑しながら、李白も膳に箸をつけ始めた。花火もそうした。


 ただ、花火の頭に浮かぶのは、杜甫の無邪気な様子によって引き出された妹の残像であった。李白の事情を知る今、花火は妹を見殺しにしたあの日のことが絶えず思い出された。
 それでも花火はあらゆる感情を表に出さなかった。今も襲う後悔と悲しみを花火は必死に隠しては李白を見ていた。

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