シュリは目を覚ました。寝汗がひどく、気分が悪い。
どこだろうと辺りを見回すが、つい最近までいた京の外れだということを知るとシュリは妙に安心した。
「起きたか、シュリ」
「舜兄」
テントの中にいたシュリのもとへ、闇が闇を割って、ぼんやりとだが、一人の男性の顔を浮かばせた。
舜という青年こそ、シュリが所属する玄冬団のリーダーであった。血の繋がりはないものの、皆が兄と呼んで彼を慕う。
「いつこっちへ? 尭様のところにいなくて大丈夫?」
「劉達を置いてきたから大丈夫。……玉響は?」
玉響と聞いてシュリは体を震わせる。そして今目の前で繰り広げられているのではないかというくらい鮮明に、李白邸でのことが思い出された。
「知らない」
シュリの声は明らかに疲れを表していたので、舜はシュリの頭を軽く撫でてシュリの元を去った。
シュリの鼓動はやはり大きい。全身刺青だらけの、赤い目をした少女や、女か男かわからない青い髪の人間、格闘した銀髪で、目元に痣のある男、そして妹を捨てた西園寺李白。次々とシュリの脳裏に浮かんでいく。
杜甫を玉響が殺したことは、ただただ辛く苦しく思った。心の中でシュリはのたうちまわる。李白に心から謝りたい。シュリはそう思い、華北にいる仲間達を想う。
「花依……」
自分と共に育ち、一番仲の良い娘のことを強く想った。
彼女こそが、李白に教えた自分達の妹だった。
シュリは寝汗を拭いて、着替えて再び眠りについた。枕元に、小さな頃から大事に持っている黒い巾着を置く。へそのあたりに痒みを感じ、少し掻いてから目を閉じる。
そこにある黒い痣が、少し白っぽくなったのを、シュリは知らない。