「あ!」


 カーレンがやっぱりと言いたげに真っ先に叫んだ。その瞬間にカーレンの懐から赤い珠が赤い光を放ち、宙に躍り出た。李白の珠も白く淡い光を放つ。ひゅんひゅんとスピカも、オーレも、与一も、そして花火の珠も光りながら宙に浮かぶ。

「李白さんが」
「黙っていて、申し訳ございません。私の珠にはこのように、天秤座の紋章が浮かび、私の右腕――そう、スピカさんと似た位置にあざがあります」

 李白の右の二の腕に、たしかに沈みゆく太陽を象徴した天秤の紋章が、白い肌にさらに白く浮かんでいた。


 白の姫。


「私はこの白い珠を守るために、杜甫を……」
 李白は唇をかみしめる。しかし長くは続かなかった。すぐに、息を吸い直す。

「いえ、今は、悲しんでいる場合ではありませんわね」

 威厳を崩さない。

「そうだね。でも白の姫が見つかって一件落着……とはどうもとても言えない状況なんだよね」


 西対や東対を荒らしに荒らした盗賊の群れが、何故か火を免れている寝殿を目指して、熱風を追い風にして猛進してきた。和秦の人間もいればどこか異国な装いの人間もいた。
 花火が右の手でびゅっと風を切る。まばたきする間もないくらい速くに、突進する盗賊共の足元に火の波が立った。


「花火さん……、ですの? 今のは」
「火には少し縁がある」


 ばちんと左手を鳴らせば、ぼんっと小気味いい音を立て炎は戦線にはじけた。爆風がこちらにもぶわあと届き、カーレンは服を押さえた。与一は初めて見る花火のその術に興奮しておお、と目を輝かせている。昨日話こそ聞いたものの、その術を今こうして見ているということに李白は少々驚いている。


「あっちからも」


 西対方面より猛々しく全てを奪おうとする若者中心の盗賊が六人を狭めて突き進もうとしている。オーレは一枚、古ぼけた反古のような札を顔に近付けて、何か呟いてからひょいと投げ捨てると、後ろの大池から現れたような鋭い水幾本がどこからか噴射された。


「オーレさん?」
「大きな池があるから。条件がいいかなあと思ってね」


 スピカににやりと笑ってみせる。単なる水ではない、刃物のように肌をきり、敵を足止めさせている。もう一札勢いよく放り投げると、札はまるで滝をさかのぼる竜の如き太さと勢いを持つ水に変化し、地に激突し、賊を殴りつけた。


「どうスピカ君?」
「消火もしておいてください」
「つれないなあ」

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