「――李白」
花火は敬称もなく、呟く。李白が叫んでから間をおかず、花火の懐中にある珠が熱を帯びた。そう花火が感じた時には既に、彼は李白の肩を掴んでいた。
強く、彼女の目が正気に戻ったほどに。
李白はびくんと体を震わせた。顔を上げる。花火は、強く言う。
「死んだ人間に申し訳なくて死ぬくらいなら生きろ。
生きて、戦え」
かつての花火がそうしたように。
主君も父も家臣も、乳兄弟も妹も失った彼は、それでもなお貪欲に生を求めた。
主君の仇を討ちたいためか、いつか家を再興させるためか、それとも――ただ生きたいためか、わからない何かに突き動かされながら、生きなくてはならない運命に自分の命を握られながら、花火は生きてここまで来た。
「今は生きるしかない」
小さく言った。それは、李白にしか聞こえない声だった。
屋敷は燃え、財産は奪われていく。だが、命だけは渡さない。捨てていかない。
命の灯を、燃やし続けていく。
「はなび――さん」
目を閉じれば杜甫の死に顔が見える。
今にも李白を冥界へ誘う、もう妹ではなくなってしまったものだ。
しかし、その死に顔を越えた向こう側に――生きた彼女の姿が見える。
無邪気に笑い、自分を慕う妹が見える。
李白の中でりんと、何かが鳴った。
「――――ありがとう、ございます」
虫の鳴くような声だったが、李白はしっかり言った。目の前の無口な男はそっと手を放した。
「わたくし、みなさんに黙っていたことがあります」
白き貴人は顔をもう少ししゃんと上げた。
目の縁は赤く腫れ、表情は険しいが、五人と向き合っている形は威厳が感じられる。
五人ともがもう何かに気付いてしまったような感じを抱いていた。それぞれの持つ珠が暖かい。上手く運命線上に乗れたのだが、遠い出来事を思い出している気分であり、ぼやけた映像が場を占領する。
李白は白い小袿を脱いだ。ぱさりと地に、上品に落とした。その下に、李白は袖のない水干を加工したものを着用していた。白くて細い腕をあらわにする。そして胸元に右手を入れ、何かをしっかり握りしめ、五人の前で花を開かせる。
白い、真珠の如き聖なる珠。