「敵さんが屋根の上――」
 にやりと与一は笑う。


「信乃とやり合った時のこと思い出すぜ」
「行かれるのですか、頂上へ」
「もちろん」


 与一は髪を撫でつけ気合いを入れた。
「わたくしもお供いたします」
 どうやって天守へ出て、屋根まで行けるかは李白しか知らない。その言葉は頼もしく聞こえた。
 涙に濡れた李白から一変し、むしろ以前より毅然とした李白に戻ってきた。天秤は仲間を受け入れたことでようやく重さを正確に量れるようになったようだ。花火は天の戦場へ向かう二人を見送る。




 東対、杜甫の部屋の方はまだ炎が踊っている。カーレンはその光景を視界の中央に据えてじっと見ていた。彼女の位置からはとても小さいその光景を、巫女は何かを感じてみなくてはいけなかった。


 スピカが見たカーレンの横顔は火の島の時よりも厳しい。
 いまだ燃える業火が彼女を縁取る所為かもしれない。


「――スーちゃん。私、お屋敷の中に入る」
「え? 何言ってるんだ」
 炎を背にカーレンは立つ。


「だって、杜甫ちゃんはそのままになってるんだよ!」
「ばか、もう――」


 スピカの返事など最初から聞く気がなかったのか、カーレンは走り出した。
 火の海にカーレンは駆けだした。スピカの目に不思議とその構図がくっきり浮かぶ。十年前に見たような構図だった。
 スピカの頭の天辺から足の先まで何よりも速く、恐怖が走った。

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第七話
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