寝殿の天にそびえる西園寺の天守閣の屋根の上から、シュリは一人西対の乱闘を目にしていた。
 シュリが所属し、率いてもいる華北の盗賊・玄冬団のみの奇襲のはずが、和秦のあらゆる山賊・盗賊が入り混じり、屋敷を喰らい尽くしている。


「どういうこと?」


 シュリは不思議そうに呟く。
 次の瞬間、シュリは背後にぞっとするものが感じ取れた。ばっと身を翻した。


 目線の先にいたのは、柳のようにゆらりと存在している、幽霊じみた男だった。


 シュリの黒い服とは対照的な、濡れているような白い着物を、だらしなく着崩している。
 髪の毛や肌も白い。しかし目だけはまるで違う。
 胸からえぐり出した血の袋のような、真っ赤な眼球を顔に宿らせている。

「――玉響(たまゆら)。あんたの仕業なの?」

 シュリはゆらりと揺れた玉響を睨んだ。

「火を放つだけでいいと言ったじゃない! 屋敷全体にとは一言も言わなかったわ!
 どうしてあんたは余計なことばかり――!」


 玉響は、にやりと嗤う。


「……っ」


 シュリは口を閉じた。気持ちの悪い汗が手に額に体にわき出す。
 狐のような細い目と、血が鮮やかなまま固まったような瞳と妖しいその嗤いで、シュリは先に進めなくなってしまう。


 そしていつも、同じ所でじっとしているしかないのだった。
 ただただ、彼女は無力だった。



 2     
プリパレトップ
noveltop

inserted by FC2 system