三人が走り寄って李白を包む。うなだれた李白は戦火の中でゆっくり顔を上げた。
 杜甫の死体を目の当たりにし、驚き以外のすべての感情がもぎ取られたような顔から、今にも息絶えてしまいそうな憔悴した顔になっていた。
 熱風が吹く。花火の、一本長い前髪が揺れた。


「杜甫が――殺、され、ました」


 李白は震えながら言った。体にまとわりつく熱い風は、妹の死という衝撃に凍らされた李白の体をちっとも溶かさないし、癒さない。
 癒してくれない。

「殺された――?」

 李白は首肯した。深くうつむいてこのまま首を斬られればいいのにと、杜甫の死に痛く苛まれている。
 ――オーレはふと天守を見た。人影が三つ、四つかと思い、そしてその内から流れ、呪術師の神経に触れる力の呼吸に、彼は眉をひそめた。
「私が……殺したようなものなのです」
 李白は、その白い肌に透き通った涙の糸を垂らした。一つ、二つ、とその糸がたどる道筋は増えていく。

 俺が殺したようなものです、と花火は先日李白に呟いた言葉を思い出す。
 二人の妹が死んだ。花依と杜甫が死んだ。二人とも斬られて死に、炎に包まれた。
 杜甫は何も言わずに死んだ。花依は言ってから死んだ。

 私を殺しにきたんでしょう?


「私の身勝手の所為で、あの子は死んでしまったのです。私の、私の所為で」

 李白は頬を浸すほどの勢いで涙を流していたが、声を崩さずに告白していく。
 花火はあの夏を思い出す。――あの言葉には続きがある。しかし、花火も、花火の身勝手で、彼女が最期に託した願いを叶えてやれなかった。
 五人が、貴人の告白を聴く。灰色の煙と、赤色の炎と、黒い野蛮が暴れる館に、ただ一人李白は汚れず、しかし涙で汚れた白の色彩を受け持っていた。
「私が」
 一際、高い声を上げる。


「私が、死ねばよかったのに!
 殺されて、――死んでしまいたい!」


 初めて、李白が嗚咽混じりで叫んだ。同時にスピカは遠い昔を思い出す。あの時と同じ心情が、生で、ありありと見せつけられる。スピカの潤った目の表面に焼き付けんばかりに。目もそむけられない、届かない願いだ。
 スピカはわかっている。時間はどこまでも無慈悲に、無情に、無常に、ものすごい速度をもって、轟音で流れていく。そのことも、スピカはわかっている。


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