「いい加減、帰らねばならないな」
「ええ」
向こうの世界に、と志摩子さんが告げた。今はもうあまり聞かなくなったその「世界」という言葉。再びわき出たそれは俺の心に、妙に不安な風を起こして――
瞬く間に二人は――逃げ出した。
人ごみに突っ込んで、ただ速く、手を繋いだまま走り去った。
「志摩子さん?」
「ミツ君!」
「お、おいおいなんだ? どうしたあ? 具合でも悪くなったのか?」
もうとっくに二人の姿は見えなくなった。あっという間に訪れた最後だった。
「鳴滝君……!」
音宮さんは一呼吸して俺の目を、まっすぐ見つめた。
「二人の顔、さっきちらっと見えたんだけど……二人揃って何だか、すごく苦しそうで、辛そうで、私……何とかしたかったけど……したかったけど……」
うんと頷く。
「不安で、よくわからないけど不安になって……」
「行こう」
俺も会場を出た。小池田が何か言ったようだが、聞こえない。
「あのままにしておけない。追いかけよう、二人を」
彼女もうんと頷いた。そして会場を出て一緒に、走りだした。