「恋人もつくらにゃー!」
「はあ? いきなりかよ」
「かくれ子にもう一度会うには子供作らんなんとやろ?」
志人は黙った。瞳を閉じる。
疲れていた時にいきなりやってきて、志人にへばりついて、光也に懐いていたと思ったら、またやってきて、一緒に遊園地を楽しんで、そして大切なことを告げて消えていった、生まれていない子供だったかくれ子。一緒にいた時間は短かったのに、印象に残っている。
もう一度逢うまでに――彼女が生まれてくるまでに、彼女があの女性と違った瞳の色を持って生まれてくるまでに時間はかかるだろう、志人は思う。
「誰かに恋してももうええやん。五年も経ってんのやし」
瞳を開く。誰かをもう一度本気で愛せるようになったら、本当の始まりかもしれない。
志人は目を丸くし光也を見た。
「そうかもな」
「芸能界なんやし! ええ子いっぱいおりそうやなー」
無邪気に笑う光也に少しかくれ子の笑顔を見た。
そんなに簡単じゃねーよ、と志人も、その生まれなかった子供のように笑った。
もう一度、一から頑張ってみようと志人は改めて思った。
最後の恋人が彼の背中を見守りながら微笑んでいる。
遥か彼方の未来に、生まれてくる子供が無邪気に笑っている。
それがいつかはわからないが、その場所に、ゆっくりでいいから向かおう、と志人は思った。
明日からはまた撮影で、志人のスケジュールは埋まっていた。
(了)