光也が三人分の飲み物を持って帰ってきた。しかし彼が見つけたのはうなだれる志人一人だった。
「どうしたんや」
その言葉に志人はゆらりと顔を上げた。その顔はすっきりとしない、落ち込みがひどい顔だった。
「かくれ子は?」
「みっちゃん」
家へ帰ろう、と言った。志人は自分でもその声の落ち様に驚いた。光也は何も聞かずに従った。
志人のマンションで、光也に一部始終を話した。かくれ子が座っていたソファの場所に、志人は座っていた。光也は少し離れたダイニングテーブルの所に座っている。三人が食事をした場所だ。
「なんか、変な子やなとは思っとったけど……なあ」
そんな不思議なこともあるんか、とテーブルに肘をつき手の甲に顔をのせる。横顔はその現象に懐疑的だった。
「志人、五年頑張ってきたんか」
「おう」
「俺も、五年やってきたんやなあ」
そして光也は大きく伸びをして、もうひとつのソファに座った。光也の顔はかくれ子と初めて会った時の顔で、全てを受け入れているようだった。志人はかくれ子の訪れた意味をただ考えていた。
「……踊り場に出たっていうか」
そしてそれはそのまま独り言になる。
「五年、とにかく頑張ってやってきて、振り返るきっかけになったな、とは思う。
あいつのおかげで。あいつが来たから、あの人のことも思い出したんだよ。
ずっと、忙しくしてて……忘れてた。いろんなことを、忘れようとしてた」
人差し指で、宙に円を描く。
「五年ってちょうどいい期間だな。こう、ループしてきたっていうか……」
「一からやるでーって、感じになったんか」
「そうだった。それだ」
最後の恋人のことを忘れるようにひたすらになるのではなく、
後ろに立っていることを思いながら、もう一度やってみようという気持ち。
志人にはゆっくり感じ取れてきた。
彼女が、始まりの場所で静かに笑っている。
その笑顔に背中を預けて、頑張ろうか、と思った。