電車は明が何度か涙を拭った後にやって来た。電車内も駅と同じように空いていた。乗車地点は県内でも田舎の方だから、当然だろう。
一定のリズムに小さく体を揺らしながら私達は二人、並んで座っていた。暖かくて心地よい。肩に少しもたれかかっている明の体温も心地よい。明はあの悲しみと後悔と謝罪がこめられた涙を解き放った所為か、すっきりとはいかないまでも、久方ぶりに手に入れたとでもいうような穏やかな顔をして、流れる景色をぼんやり見ていた。
「それにしても、光が羨ましい」
「何で」
「だって、小さい頃からずっと一緒だったなんて。私の知らない明も知ってるんだろうな」
「だったら、うちの両親も兄も羨ましいことになるんじゃないの」
「それもあるけど、……そうやって、別れても忘れずにいてくれて、昔好きだった人をいつまでも想い続けているのが、なんていうかなあ……。
明はまるで光のことがずっと、ずっと好きだったみたいじゃないか。無論、今も。それがね……」
「今僕が好きなのは君だからいいじゃないか。嫉妬はつまらないからよせばいい」
それに、と明は私を覗き込む。
「光は女の子だったんだよ? 同性同士なんだから嫉妬したって尚更、実にならないよ。
君は男だろ? そういうの、僕、男らしくないと思うんだ」
彼女――自らを「僕」と称し一風変わった子である明は、私を見上げてにっこり微笑んだ。
その勝ち誇ったような生意気な瞳が可愛らしくて、そうだな、と私はしぶしぶ、しかし笑いながら返事をした。