二人
私は明(あきら)と共に駅に来ていた。
二人が付き合うようになってから初めての旅だった。地方なので、まず県で一番大きな駅へ行かなければ空港にも行けない。しかし、まだ行楽シーズンである春には早いので、駅には二人以外人気がなかった。
ボストンバックとトランクを二つ、各々の隣に置く。身を切るような冷たさと戯れる風が吹き、私のマフラーの端が揺れた。それを寒がって、私は暖かい繊維の中にもっと顔を沈ませた。
「電車来ないね」
私は言う。マフラーの中で言ったので、少々くぐもって聞こえた。
明は声にも電車にも寒さにも、さして気にする様子はなく、そうだねと適当に流してつばのある帽子を整えている。
空は眩しいほど白っぽく、曇っていた。昔のヒットソングのように、なごり雪が降ったらさぞロマンチックだろうとぼんやり思うが、付き合ってまだ三か月程度の自分達に別れを彷彿とさせるものはまずいなあ、とそれを打ち消しながら、手を擦り合わせていた。
「少し、早く来すぎたなあ。暇だね」
「暇なら、僕の話をしようか」
明が言った。面白い話でも、つまらない話でも、怖い話でもなく、明の話と聞いて私はマフラーから顔を離し、明をまじまじと見た。
普段から自分のことをなかなか話さない明がそんなことを言い出すのは唐突であり、当然私の興味は湯水の如く溢れ出た。それを気付かれないように、どうぞと頷く。
こんな下心に近い興味を持つ自分が明に知られたらどうしよう。いつも、私は何かと明に遅れを取っている。その度申し訳ないと思うし、劣等感もそれなり感じるし、やっぱりなんというか、恥ずかしい。今回もそうだった。
明は十分間を置いてから話し出す。
「僕は――ずっと、多分生まれた時から中学生の中盤くらいまでずっと、『二人』だったんだ」
「二人?」