私は二人と聞いて、双子を思い浮かべた。生まれた時からというのなら、双子が適当で、胎児の時代に遡っても、常に対の存在と言えばそれしかない。
しかし明は首を振った。
「僕の中に僕じゃない子がいたんだ」
「それはつまり、別の人格ということ?」
「そういうことになるかな」
「じゃあ、多重人格だったの」
「そういうことじゃないんだ」
要領を得ず、妙に唸った声が出てしまう。明は何食わぬ顔で続けた。
「僕に人格障害はないよ。多重人格者じゃないし、なかった。
……そうだね、子供ってよく架空の友達を作り上げたりするじゃないか。それに、ピーナッツの登場人物のライナスはずっと毛布を持って放さない。それの融合したようなもの。
僕の作りだしたものっていえばいいのかな」
「……しかし中学生までって、随分長くいたんだ」
明は少し、その端正な顔に無邪気な笑いを浮かべ、そうさと頷く。その笑みに私は不意打ちを食らうように、胸が高鳴った。気付かれていないか、不安だった。しかし明は気づいているのかいないのか、ぼんやりとどこかを向いたまま、話を進めていった。嬉しいのか残念なのか、自分でもわからない。
「その子は、女の子だった。僕は近所の子が持っていた、ドレスがひらひらして、フリルがたくさんついて、髪もくるくるしてる、そんな人形をちょっとだけ羨ましいなと思ったんだ。
兄の影響でロボットとかプラモデルとかばっかり、おもちゃ箱に入ってたもんだからね。実際遊ぶならそっちの方が楽しかったし……。ああ、ぬいぐるみとかは、人並みに持ってたよ。
でも、やっぱり欲しかったのかな。子供ながらに欲しいって言いだすのが何だか恥ずかしかったのを覚えてる。だから、自分で作ってしまった。それも人形じゃなくて、一個の人格をね。
名前は、僕が明だから似たようなのがいいと思って、光(ひかり)っていうのにした。もっとも名前をつけたのは、だいぶ後だったけどね」
「光か。そんなフリフリで可愛い人形がモデルだったんなら、横文字の名前にすればよかったのに。
しかし、明もそんな人形に憧れるなんて可愛い時期もあったんだな」
「最後のはスルーしてもいいのかな? 横文字なんて、小学校二年生の僕の頭じゃ浮かばなかったよ」
「二年生まで、名前をつけなかったのは?」
「名前なんて必要なかったからだよ。それほど僕達は親密だったんだよ。
そこに僕がいて、彼女がいればよかったんだ」
私はまたも胸が引き付けを起こしたように、真剣にそう話す、明の横顔に見とれてしまった。
中学生まで、ということは、彼女はもういない。それほどまで――二人が一つ、いや二人で一つという稀有な存在でいるほど惹かれあっていたのに、何故彼女は消えたのだろう。
「中学生になって、僕は――初めて恋をした」
しばらくその疑念と、程よい胸のときめきとでぼうっとしていた私を、その一言が現実に返してくれた。