「――次の日も、そのまた次の日も、光は姿を見せなかった。

 僕と喧嘩したのがきっと嫌だったんだろう、光は繊細な女の子だから、と怒りを抑えながらその場しのぎで思っていたけど、一週間、二週間と続いて、これが異常だとようやくわかった。

 もっと早くに気づいていれば……いや、気づいていてもどうしようもなかっただろうけど……でもこうして未来から振り返ってそう思うくらい、僕には光を失ったことが今でも、信じられない。何とか出来たんじゃないかと、どうしても思わずにいられない。

 

 僕の片想いは光がいなくなっても続いたけど、光がいなくなったことがどんどん僕の中でのウェイトを増していった。
 僕の中の、大切な友達で、僕自身だった。
 たった一日くらい許してあげればよかったのに。僕を乗っ取るなんて――光も僕のことをきっと大切に思っててくれたのに、その光に、出来るわけない。
 そんな簡単なことに、やっと気付いた。
 そして、片想いも終わっていた。――恋情よりも、悲しみや後悔は、強いものなんだ。
 僕が想うのは、会長よりも、光だった。



 失われた自分だった。

 

季節は春から夏へ、夏から秋へ移行していく。やがて冬が来て年が変わり、春が来て年度が変わる。
 先輩に関してはもう過去の恋になってしまったけど、光がいたら、たとえば卒業式の夜は結局片想いで終わってしまったねと言い合えただろう。もう恋なんてしないなんて、歌みたいなことを言ってただろう。
 けど、もういない」

 

どこにもいない。
 


 外の世界の冷たさにも負けてしまいそうな、頼りないその呟きが私には涙に見えた。

 

「そして僕も中学を出て、高校を出て、こうして大学生になって……友達も今は普通にいるし、人付き合いもうまくなった。恋は、――実は、君以外にしなかったけど。
 全部一人でやっていかなくちゃいけなかった。もう、一人でも「二人」じゃない。
 いや、もともと僕は――ひとりだったんだから。

 他の人だってみんな、生まれた時から、一人なんだから。

 そう割り切ったけど、寂しい夜は、いつだって誰かを求めた。
 それは生身の友達でもなく身内でもない――光だった。
 昔、怖い話を聞かされた夜や、兄さんと喧嘩した夜や、悪い点をとった夜や、そんな様々な夜を僕は一人じゃなくて二人で過ごした。
 いつだって光は僕を慰めてくれた。まどろみの中で僕らは丸まって話すことで、寂しさや怖さや悲しさを眠りに上手く溶かせた。
 ――僕は一人でそんなことは出来ないと自覚するとともに、今まで光に甘えてきたことも知った。

 軽はずみにあんなことを言ってしまって――光がどんな考えだったにしろ、乗っ取るんだろうなんて。

 僕を殺して、なんて――」

 しかし、明は泣いてはいなかった。



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