明はまだどこか定まらぬ方向を見ていた。その視界の中空には、きっと最初の想い人が浮かんでいる。
「周りは中学生らしい、傍若無人・唯我独尊であって、とにかくひたすらに享楽的でしかない、そのくせちっとも面白くない子供っぽい子ばっかりで、少々僕は不満だった」
「明は賢いからね」
「僕が賢かったかどうかは――いいや。
とにかく僕は初めて恋をしたんだ。中学校二年生の時の、生徒会長に。
学校中の有名人だった。頭はいい、スポーツは出来る、容姿だってよかった」
「私よりも?」
「おや、嫉妬?」
明は初恋の人の幻から目を離して私を上目遣いで見た。上目遣いだというのに、私が見下ろされている感じは最初からしていた。明の魅力にはかなわないと、わかりきっていることを再確認した。明もまた別の方向に目を向け、話を続けた。
今度浮かべる姿はその初恋の君か、それとも光という子だろうか。
「学校中に会長を知らない人はいなかった。会長という役職のせいももちろんあったけど、みんな会長が好きだったんだ。――僕も好きだったくらいだから」
「ああ、本格的にその会長が気になってきた」
「大丈夫だよ」
「何が?」
「君の方が好きだから」
何の気なしに愛の告白を言ってしまえるから、明は大したものだと思う。その頭の構造や胸の中がどうなっているのか、一つずつ検分してみたいと真面目に思う。
「ほら、中学生なんていう子供の時分で、箸が転がるのも疑問に思っちゃう年頃だろう。
僕だってそうだったのは全然おかしいことじゃない。
会長は周りの生徒と違って子供っぽくなかった。言動も、仕草も、文房具の選び方も、何もかも一段階上のレベルだったんだよ。しかしそれも昔の話、瑣末なことに過ぎない。
いま大事なのは僕が恋をして、そして――」
明の頭だけが見える。明は線路の向こう側に視線を向けていた。
どんな顔を、どんな目つきをして、そしてこの瞬間に何を思っているのか、当然わかる術もない。
私は少しの沈黙を持て余し、指を組んでは放していた。何も言わないことに自分も気付かなかったようで、明はごめんと言いながら話を続けた。
「僕は生徒会の一段階下の組織に入ってて、雑用のようなことをやらされていたんだけど、会長はいい人だったからそういう雑用も見にきてくれたり、手伝ってくれたりした。
やがて顔を見る日が増えてきて、仕事以外でも廊下で、図書室で、全校集会で、会長の顔を見かける度にいいなと思って、そしてあっという間に恋に変わった。
光も、明に好きな人ができてよかったねって喜んでくれた。正直言うと、あんまり友達もいなかったから、僕そのものでもある光が僕のことを心配してくれて、そして人間的な感情である恋愛感情の芽生えを喜んでくれるのは当然だったし、僕もありがたかった。
それはいいんだ。問題はここから。
――光も、会長に恋をしてしまった」