「いつからか一人でいることに耐えられなくなった僕は、寂しさしのぎにこんなことを考えた。
光が生まれたのは多分五歳くらいの時だったけど、本当は生まれた時から一緒にいるんじゃないかなって。 生まれた時から僕は「二人」で、寂しい時も悲しい時もいつだって、一人じゃなくて「二人」で過ごせるような、人間の中での特例だったんじゃないかって。
笑っちゃうだろ? 子供っぽい……。
さよならも言えなかった。
謝ることも出来なかった。
消えた時から今までの喜びや嬉しさを見せることも出来ない。
今、君を見せることも出来ない。
一つの恋になんであんなに、むきになっていたんだろう。
僕の一番大切なものは、光だったのに、殺したのは――僕の方じゃないか」
「……明」
明は口を閉ざし、喋ることはなかった。そして、絞り出されるように涙が零れ落ちる。天気雨のように見えた。嗚咽も漏らさず、ただ、感情を静かに発露させていた。
「明」
私は肩を抱いた。肩だけじゃ足りなかった。明を立たせて、きちんと抱きしめた。動揺しているのか、していないのか、明はただ私の服に涙を――きっと何年も誰にも打ち明けることが出来なかった、しかし風化することなく生まれたての雫のようにすいすい零れ落ちるそれを染み込ませた。
私にも伝わってくる。――私は明の悲しみを全て、理解出来たとは言わないが――確かに何かが心に届く。
「心配しないで」
私の言葉は拙いだろう。
だけど何としても、悲しみをぶつけてくる明に――私は伝えたかった。
「私がいるよ」
明は、普段考えられないほどの積極性を持って、私を強く抱き返した。しかし、明は頷かなかった。
「――私と明で、二人で、いるよ」
私が光のようになれないのは明白だ。彼女と同じ風景を完全に共有できないし、これからまた一人の夜はいくらでも訪れる。
だけど誓いたかった。
私は、たった一人、明のために、いつだって私がいることをとにかく伝えたかった。
たとえ将来――光のように、別れる運命になったとしても。
しばらくして――明は、何度も、頷いてくれた。
私達二人の周りは寒いに違いない。
だけど私と明の中心は、積年の涙とたった今生まれた誓いで暖かく、熱いものだった。