与一は自分にゆらゆら襲ってくる青年の腹を殴り、もう一方から迫る者には足を払って少し引く。牙を見せ襲いかかる犬には小刀でめいっぱい攻撃、他の犬も同様だった。
 スピカは軽い身のこなしで赤い目の青年達の攻撃をさっとかわし、両者を激突させる。次々と拳は飛んでくるが村人達のことを思うとなかなか手が出せない。昔はもっと非情だったはずなのに――思考が別の方面に寄り道した時、スピカは打撃に見舞われる。口が、鉄の味で染まる。犬も襲いかかってくる。スピカは苛立ちを畜生に向け、スピカ愛用の鋭い刃を掴む。ちょうどその刃は針のようだった。突き刺し、引き抜くと同時に敵のまばらな場所へ跳んだ。
「スピカ兄さん! 大丈夫?」
「うん――ニコくん、君はもう外に出てた方がいい」
 すぐ近くで太望が棍棒のようなもので犬を追い払っている。ニコは首を横に振った。
「ぼくだけそんなこと出来ない」
 彼は自分の珠を取り出す。すると、取り出す前は無色透明だった珠が、ばあっと光り出した。あまりにも強く、二人は目を閉じる。光は屋敷全体に広がったが、視界が無く気付かない。スピカは目を少しずつ開け、その青い目を覗かせ光を捉える。
「金色の光だ」
 スピカは呟く。口に広がっていた鉄の味が引いた気がして驚く。ニコは左手に珠を握った。
「ぼく、やってみます!」
 生まれた時から、父母が死ぬ時までそうだったように。向かってくる男に飛びかかってこんっと拳で軽く打つ。たちまち赤い目がすうっと、この大陸の人間らしく青い目に変わった。
「――あれ、俺は何を」
 青年は正気に戻ったようである。
「早く、門を出て村長さんの所へ」
 ニコに促されて彼は言うとおり門へ走る。ニコは自分に対して頷き、次々と青年達を正気に戻していく。その都度拳を丸めたり開いたり、はた目からは忙しそうに見えるだろうが、ニコは全然気にならなかった。殴るのは忍びないが、人々が心を取り戻してゆくことが嬉しい。
 その様子を、スピカは見つめる。口に広がっていた血の味はもはやない。
(――仁の珠を持つからか)
 人を思いやり、慈しみ、愛する心。普段は控えめで大人しいらしいニコが積極的で勇敢に見えるのは、人として忘れてはならない心を持ち、光を放っているからか。
 その光は瀧田城の中心から漏れる光によく似ていた。
「なーにぼけっとしてんだよスピカ」
 いつの間にか与一が隣にいた。
「ぼけっとしてません」
「ニコのあの光のおかげでへばってたのがよくなったぜ。傷もねえし」
「へばってたんですか」
 意外に思っているところに太望がやってくる。
「まだあの犬が残っとる。にしても不思議じゃのう、力が」
 みなぎってくると腕を撫でた。よし、と与一は気合いを入れ小刀から刀に武器を変えた。
 スピカも得物を握る。確かに力が溢れた。握りしめるほど、血流が速く、騒いでいく。


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