春の庭


 カーレンと李白、つまり姫の二人は瀧田城に残り、男性陣は二手に分かれて今なお姫を探して世界を旅している、残りの仲間を手伝うことになった。スピカと与一は青の姫を探すニコと太望、オーレと花火は黒の姫を探す信乃と双助に協力することとなった。後者の二人には、意外なことにもう一つ使命が与えられた。
「この話はほとんど誰にも話していなかった」
 陽仁は言う。これから話すことはオーレも知らないということだ。張りつめた空気が広大な謁見の間の隅々まで行き渡ったことを、花火は身をもって感じる。
「十八年前に、私の娘――陽星の姉が、鷹に攫われた事件があった」
「姫君がいらっしゃるのですか」
 オーレは珍しく目を丸くし、花火も口をぽかんと開ける。確かに初耳の情報だった。
「そう。まだ一歳くらいだった。従者や女房達が目を離した一瞬に。内々に行方を調べていたが、はかばかしい結果は得られなかった。しかし――」
 陽仁の顔が少しほころんだ。
「ようやく、それらしい娘が華北にいることが判明したのだよ」
 二人の行き先――信乃と双助がいるのは華北であった。
「私達がお迎えにあがればよろしいのですね。おまかせください」
「そうなのだが――」
 再び口調が沈む陽仁を、花火は訝しむ。
「どうも姫のいる場所は、人も獣も入りにくい山の奥地の方で、しかも――盗賊の隠れ里のようなんだよ」
「盗賊……」
「華北は現在治安がすこぶる悪いと評判ですからね。元々、その里で拾われたのか、あるいは」
 鷹に攫われた姫が、再び攫われたか。流浪の人生を送っているのだろうか。
 花火は少し顔を伏せる。
「そこが心配なのだが――とにかく元気でいてくれるのなら、それだけでほっとする」
 陽仁はまだ見ぬ成長した娘を想い、心なしか穏やかな顔をした。
 花火は、この城に貴人の女性が少ないことをふと思う。陽星の母も亡く、陽姫は光のままで、正統の姫も攫われている。四色の姫はまだ二人しかいない。何か解し難く、同時に進み難い状況は、玉梓が作りだしているのでは、と思った。
愛しい四人の姫殺しの恨みが――気付かないうちに、広がっている。
「生まれた時に、ある呪術師に見てもらったところ、霊が宿りやすい体質だと言われた。花のように育ってほしい、そして零媒体質ということで――名前は、花の依代、花依姫」
「え?」
 普段、冷静で無口な花火は自らも予想のつかなかった調子の外れた声を上げた。オーレも、陽仁も目を丸くして彼を見つめてしまう。
「花火、どうした?」
「いえ、申し訳ございません。――死んだ妹と、同じ名前ですので」
 うつむき、やるせなく笑った。陽仁は眉を下げそうか、すまないと呟いた。花火の頭にぼんやりと、あの世で微笑する妹が浮かんだ。

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