「学校には行きなよ、亮くん。――みんな待ってるって、委員長の子が言ってたよ」
「――うん、考えてみるよ」
「じゃなくって、行―きーなーさーいー。義務教育なんだから!」
 へいへい、と幹飛の言を軽く流し、その結果やはり幹飛は頭に血を登らせる。その様子さえ、喜備には微笑ましかった。
「楽しいと思うよ。私と遊んで楽しいんだったら、きっと、もっともっと楽しいよ」
くすくす笑いながら喜備は続けた。
「ねえ、わかりきってること言ってもいいかな」
 亮はなんだ? と目をぱちくりさせた。喜備が胸に、一文字ずつ想起するそれは、何度も何度も、亮に向けた心からのメッセージで、今回も変わらなかった。
「みんな、私も、美羽も、幹飛も、友達だよ?」
 何回も聞いた言葉に美羽も、幹飛も、亮もやれやれと肩をすくめたが、悪い気分ではないようだった。場の四人は笑っていた。
 少し喜備は歩いて、落ちていた紙袋を拾い上げる。中に入っているのは編み立ての、毛糸の帽子。有無を言わせず亮に被らせて、遅くなったけど、とはにかんだ。


「お誕生日おめでとう」
「おめでとう悪がき」
「おめでと! ……よし、じゃあ四人で街に――なに? 泣いてんの?」


 亮はうつむき確かに体を震わせていた。が、そう幹飛に言われぬっと顔を露わにした。頬は、特に下瞼辺りはそこいらの血が集結したように真っ赤に腫れていた。
「泣いてねーよ! ばーか!」
「うわ、ひどい顔」
「っせーな! だって、こんなの……」
「あ、気に入らなかった? それともちょっと小さかった?」
「ちげえよ、……うう……」
 結局、豪快にとはいかないが亮は出てくる涙を惜しげもなく流していたので、落ち着くまで三人は傍にいた。誰かが涙を流している時に流れる大変ありがちな、気まずい雰囲気が場を支配していた。喜備はしかし、亮の頭を撫で、そして抱きしめるのはそれほど苦痛ではなかった。

    5
続く
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