「小説や漫画に出てくる主人公たちのように、友情を獲得するために俺はうまく立ち回れない気もした。どうしても冷めちゃうんだ。そうなってくると萎えて、小学校も私立にしろ公立にしろどっち取ったって俺と同等な奴はいないし受験もねーから公立でいーじゃんって思ったの。その学校も全然行ってないわけだけどな」
 小学校教諭志望の幹飛はいろいろと聞き捨てならなかったようだが、抑えていた。
「俺は、見限ったんだ。俺は友達や友情や青春や学園ドラマだとか……そういうのには絶対、縁がないんだろうなーって。友達なんて存在は俺の人生には出てこなくて、出てくるのは部下とか同僚とか、父さんの仕事の手伝いするんなら多分そんなところだろうよ。

「あの喜備」が言ったことだって……完全には否定できねえじゃねえか。友達に限らず、人間関係なんて、結局はエゴとエゴのぶつけ合いと、妥協の繰り返しなんだし。そもそも人間が、エゴの塊なんだから。そんなことない、って反論するのも、エゴだろ。

 ……泣きそうな顔しないでくれよ」
「……だって」
 喜備の目頭がじくじくと温まっていく。
 喜備の知らない世界で、つい最近まで、亮は亮だけの孤独を貫いていた。それは孤高とも言える、強さに似た何かだった。たとえばここが戦場という過酷な現場なら、亮の生き様は、――余分なものを排除しきったそれは表彰ものだろう。しかしここは平和で、静かで、戦場ではない。人間が生活する社会に、余分とは必ずしも、いらないものではない。
「だって」
「もー泣くなよー! 俺がちゃんと話してるってのに」
「ちゃんと? って何よ。偉そうに」
 美羽が睨みをきかし、途端亮は言葉に詰まったように黙る。立ち上がっていたがすごすごと座り直した。
「……訊いていい?」
「なに?」
「あの日、三国駅にいたのはどうして?」
「……何となく。一人で出歩いて、遊びにでも行こうかなって思ってただけだよ」
「じゃあ、偶然なんだね。私達が出逢ったのは」
「そう、偶然……偶然なんだ」
 亮は若干泣き顔の喜備を見つめながら、微笑した。

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