与一がぱちんと小気味良く指を鳴らした。

「別に――火の島行かなくても、和秦に、安房にそのまま帰ればいいんじゃねえの?」

 合流すればいいんだし、とさも当たり前のように言う。

「それでも、日がかかり過ぎるよ。華北から安房直通は無いんだ。あるのは東北行きで」
 じゃあお前らはどうやってここへと与一は反問し、信乃は受け答えに終始する。信乃と荘助は里見家の支援により直通でここまで来たらしい。それでも大分時間も手間もかかって難儀したという。カーレンは苦笑した。
「そうね。あたしも京へ行った時は東北で降りたわ」
「へえーシュリさん何しに京へ行かれたんです?」
「う……いいじゃないの、過ぎたことなんだから」
「李白さん家に泥棒しに来たんだよな」

 言うなっと、まるで動物のじゃれ合いのような戯れがシュリと与一に起こり、周りはケラケラ笑いだす。

「ってこんなことしてる場合じゃないですよ兄さん姉さん!」
「ニコくんの言う通りよっ」
 そうチルチルは言うが、顔からにやけっぷりは取れていない。

「そう、こんな遊びはともかくとして、その火の島に飛ばされたとか言うあんたは、じゃあどうしてここにいるかってことよ」

 まるで刃でも突き付けられるようにシュリに指をさされ、カーレンは急いでここまで来た経緯を思い出す。思い浮かぶのは、ふらふらと歩く自分、夜、浜辺、そして――。

「火の輪……」

 ひ? と、その場で異口同音が見事に実現した。内心少し驚きながらカーレンは頷く。

「夜……お姉ちゃんのことを思ってたら、急に火の輪っかが出てきて、それで、そこへふらふらっと飛び込んで、気がついたら――」
 ここにいた、と床を指さす。
「――おれが思うに、珠の力か何か、ですね」
「大体のことは姫さんの力ってことで説明付くもんな」
 数々の珠の力、及び陽姫の力を見てきた者達はうんうんと頷き合い再びカーレンを見た。
「そんなわけで……どうしてここに来たかもよくわからないけど、どうやったら火の島へ戻れるのかも、わかんない……」
 言いながら、カーレンは足首の黒い紐に触れる。紐の確かな感触が、自然とスピカを想起させた。

 女と見間違える程端正な顔立ちに、さざ波のように揺れる青い髪を持つ彼が、気難しい顔をして、ただカーレンを見ている。そんなスピカが浮かんできた。
 愛しい。体の中心から沁み出た感情はたちまちカーレンを染めていく。

(――生きてさえいれば)

 そして、あの時とはまったく方向の違う想いが、その情熱と共に迸る。
「――陽姫のお導きってものかしらね」
 シュリがそう決定づけ、皆に背中を向けたまさにその時にカーレンは思う。

(生きてたら、きっと逢える。
 この世界で生きている限り、また、笑いあえる。

 そうでしょ、スーちゃん!)

 きゃっとシュリの驚声がした。どうしたと皆、シュリと同じ方向を向いた。
 そこには――黒い闇を中心に抱える、まるで曲芸にでも使われそうな火の輪が、当たり前のように宙に浮かんでいた。

 皆が皆、瞠目した。

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