涙の数だけ



「さて、そうとわかったら、早速スピカ君のところへ行かなくちゃね」

 シュリは椅子から腰を上げ大きく伸びをした。すると細身の美しさがよりはっきりとわかる。カーレンは涙をぐいと拭っていつもの笑みを見せた。シュリは何故か、間を置かず大股で扉の方へと向かって行った。何だろう? カーレンはきょとんとしてシュリの動向を伺う。
 彼女は勢いよく扉を開く。引く扉なので、扉にくっついていた者はやはり勢いよく室内へ、不意に入り込んでしまう結果になる。

 与一に双助、信乃、そしてチルチル、ニコまでが無様に転がりこんだ。

「やーっぱりあんた達盗み聞きしてたのね」
 闖入者の一番手は与一だったがシュリは何故か双助の胸倉を掴んで凄んだ。双助はかなり苦しげに笑っている。
「あの、姉さん、ごめんなさい……。いけないことってわかってたんだけど……」
 ニコの詫びいる様子が相当必死に見えた為か、冗談よとどこか渋々告げ双助を離す。双助は肩を落として苦々しく息をついた。
「でもシュリさん、結構乗り気らしいですし、おれとしては、嬉しいですよ」
「よ、陽姫が復活したらすぐにここに戻るわよ」
 心なしか、シュリの白雪の肌がさっと赤く染まった。
「まあまあ、落ち着けってよ」
 与一をぎろりと睨んで、また何か言いたそうにしているシュリを余所に、信乃はカーレンに声をかけた。
「それで、カーレンは一体どこから来たの?」
「お姉さまが歩いて来れるなら、ここから近いはずよね」
 チルチルは笑顔だった。カーレンはその笑顔に申し訳なくなる。まさか歩きどころか船を使わないと行けないところにいたとは、チルチルは知る由もない。
「ごめんね……みんな」
 せっかく顔を上げて、いつものように穏やかな笑みを見せていたカーレンは、チルチルの望むような返答が出来ないとまた顔を伏せた。

「私も他のみんなも、華北に来なかったの。北と……南とに別れちゃったの。
 私は、私のふるさとの――華北から、和秦から、ずっとずっと南の、火の島って所に飛ばされたの」

 苦笑して顔を上げた。その予想だにしなかったカーレンの言葉に、シュリ達は不思議そうに、ある者は首を傾げたり、ある者は眉を寄せたり、またある者は目を丸くしていた。


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