スピカが御簾を抜けるとカーレンもついてきた。
「危ないから中にいろよ」
「スーちゃんだって危ないじゃない」
「僕だって少しは強いよ」
 スピカは謙遜するつもりで言った。


 スピカの家族を虐殺した犯人は二人いた。――その内一人はつい最近スピカが首を切った。
 その後の乱闘にはオーレや、魚座と悌の珠を持つ大柄な男・太望も加わったが、スピカは奮闘した方だっただろう。

 しかし、それは人殺しだった。
 誇れるものでは、全くない。
 スピカは顔をしかめた。気持ちの悪さが胸に泳ぐ。


 二人は寝殿にそびえる天守と、庭の大部分を占める大きな池を眺めた。雅やかなこの建築に、勇ましい天守が備わっている様子はなかなか面白い。月がその頂あたりに見え、大池の水面にも悠然とその姿を浮かばせていた。

「海みたいだな」

 その池を眺めると気持ち悪さが幾分解消された気がした。スピカは渡殿に静かに腰をおろした。
「そうだね。でも、私はちょっと怖いな」
 カーレンは隣に座った。

「こわい?」
 スピカは意外の感に打たれた。

「ここからじゃ、池の底が見えないからかな。私は、海も少し怖いから」
「? 嫌いなのか? 泳げないのか?」
 南国育ちで、常に海と共にあった少女の横顔をスピカは思わず見つめた。
 少女はスピカと目を合わせるように顔を動かした。
「んーん。泳げるけど、好きで泳いだりはしないなあ。南の島育ちなのにね」
 そしてカーレンは素足の爪を手の指の腹で磨く。爪は桃色で、先端は白い。
「私は火の方が好きだよ」
「火は触れないじゃんか」
「さわれなくてもいいんだよ、スーちゃん」
 カーレンは微笑んだ。

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