私を殺しに来たのでしょう。
花依の声が花火の体に響く。
許婚を待つと決心した花依にあまりにも早くやってきた最期であった。純潔を守った花依は今はの際でも、許婚を想い、宝刀を兄に託した。
許婚の刀、すりかえられた刀。
しかし花火は刀を許婚に返そうとしなかった。
刀を利用しようとしたのだ。自分と、家の為に。
しかし、それが何になったのだろう。刀は許婚のもとへ戻ったが、花依の最期の願いを即座に叶えようと、花火はしなかった。
だから、花火には花依の願いすらも殺したように思えた。
月は冴え、白く浮かんでいる。
李白は白い煙を目で追い、そしてその人物の横顔を瞳に映した。少し冷たい風が吹く。二人が隣り合っていることの温かさに、李白は初めて気がついた。
「花火さん。聞いてください」
同じ月を見つめながら、李白は左大臣とのことを花火にそっと打ち明けた。何故かは李白自身よくわからない。ただ李白は今を逃したら、このことを口にすることは永久に出来ないと思った。静かでゆっくりとした語調であったが、しかし心は急いでいた。頭から、心から、どっと押し寄せる一つ一つを丁寧に花火に伝えていく。だが、白い珠のこと、自分が彼らの捜している姫であることは一切、口にしなかった。