スピカ達はその翌日、京の都に入った。
 巨大な正方形の街で、入口にある羅城門から、この地を治める帝の血統がおはす大内裏までの大通りを朱雀大路という。スピカ、カーレン、オーレの三人はその巨大な通りをしばらくのんびり歩いていた。高貴そうな装いの牛車が何台か通っていったり、京の都の外れから来ている行商人が何人も出店や露店を出して往来を賑わせている。子供達がはしゃいで三人のもとを通り過ぎ、狩衣を着た男が何名か馬上で話し合っている。活気と品の良さが同居している風にスピカは思った。

 碁盤目状になっているこの都は、そのせいで道がはっきりと曲がり、わかりやすい造りとなっていた。花火と与一が逗留している西園寺家は右京、西京極と呼ばれている街の隅にある。それでも、大貴族の邸宅にも負けない比較的大きな館らしい。物見やぐらのような高い建物を持っているのが特徴だと知らされていたので、三人はそれをすぐ見つけ、眺めては歩いた。

 西園寺家の門にたどりつく。まるで寺院や瀧田城の城門の如き巨大で、堅牢な造りがスピカ達を威圧する。更に、見るからにもののふの心を持ち、幾多の戦場をくぐりぬけてきたような男が二人、あうんの金剛像のようにこちらを睨んでいる。虎のような顔をしていた。無言でスピカ達を追い返そうとして、逆らえば三人は鹿のようにたちまち肉として食われるのだろうか。
「こちらは西園寺李白様のお宅ですね」
 そうスピカが思っていると、オーレが二人の男に臆することなく、きわめて友好的に話した。安房の里見という国からやってきて、こちらにしばらく逗留することになったということを告げると、まやかしでも見たかのように無視され、知らぬ聞いておらぬの一点張りだった。鋭い目つきで、神像ともいうべき二人の男は侵入者の三人を視線の矢で射殺そうとしていた時に、声が聞こえた。

「よしな二人とも」

 人影が、高い塀をひょいと軽く超えて現れる。与一、と二人が声を合わせ、顔も見合わせた。与一は着地し、虎男二人に話を聞いていなかったのかと子供にするようにからかった。
「俺の客だよ。警戒すんのもわかるけどな」
「見るからにうさんくさいものね。特にスピカ君は」
 むかっとしてスピカはオーレの肩を強くはたいた。カーレンはけらけら笑っている。カーレンも、全身に赤い刺青が走っているのだから十分怪しく見られるだろう。
「お久しぶり与一君」
「久しぶりオーレさん。っと、そっちの青い髪がスピカだっけ。んで隣が」
 カーレンは頭を下げ、継続している笑みを与一に向けた。
「カーレンです。よろしく与一さん」
「あんたが赤の――ふうん」
 与一はさわやかな緑色の瞳と微笑みでカーレンを見つめた。カーレンはその時、彼の右頬、右目の真下にある印を見つけて、与一はきっと自分の鎖骨にある蟹座の紋章を見たのだろうと思った。
「じゃあ入って李白さんにお目にかかろうぜ。でも俺は仕事があるから、途中で抜けさしてもらう。 門を開けてくれ」
 金剛の二人は頷いてぎぎぎと音を立てさせながら門を開けた。スピカもカーレンも、おそらくオーレも見たことのない貴人の邸宅への世界が開く。

 与一は二人に別れを告げて、世界へ通じる砂利道を進む。そして次の門を開くと、白い砂地に、大きな池と、遣水、そして木々が品良く並ぶのが目に入ってきた。全体的に長閑で、時さえも足を遅める印象をスピカは抱き、雅と呼ばれる何かが四人を取り囲んだ。

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