光が落ち着いた場所は意外な場所だった。
 学校の隅、それも奥の奥の方。あちこちにうず高く積まれたゴミ袋、分解されたダンボールは畳のように置かれ、ばら撒かれたように散らばる空き缶、雨に滲んだ古雑誌や古い教科書の数々に、何やら大きくてやたら時代かかっているパソコンの周辺機器を始めとする粗大ゴミ。他にもいろんなものがごちゃごちゃしている。
「ここ……不法投棄の、ですよね?」
「ああ……だよな。あんまり不法投棄場所多いから、処理に困ってそのままにしてる所も多いって前に小池田が言ってた気がするんだけど……」
 何故ここに二人だった光が落ち着いたんだろう。それを考えながら私は目の前に広がるゴミで作られた王国のあらゆるものに目をやっていた。今年にきた台風や大雨の所為か、書物などはただ滲む以上に酷い状態になっているものも多い。
「何だか宝探しでも出来そう、だね」
 鳴滝君はゴミの山に入り込みつつそう言って次の瞬間あっと声を上げた。
「どうしたんです?」
「これ……このタヌキのマスコット!」
 彼の右手には、射的で志摩子さんが獲得したそれが握られていた。
「ここに、落ちてた……」
 状態は濡れても傷んでも無くて新しい。私はそれを見て驚きながら、彼の足もとにある紙の束に目を向けて――何か、あやふやな既視感を覚えた。
 おぼろげな情報を必死で固める。これを私はどこか――そう、演劇部で見た。
 あの日。初めて鳴滝君と出逢い、私の作品を気に入ってもらい、大掃除を手伝ってもらって、私の夢物語を、彼にそっと打ち明けたあの日にだ。


「これ……! これ、演劇部の!」
「え? 何?」
「私達が最後に処分するはずだったものです!」


 年季の入った台本や資料を、少し読みたいなあ、そしてもう少し鳴滝君といたいなあ、と思っていたから、一年生が持って行ってしまって名残惜しかったのを覚えている。
「え? それ処分されたはずじゃあ」
「あ……その、多分一年生に問題があるんです」


 今年の新入部員も多く、演劇部は全く廃部の危険性はないんだけど、人数が多いと自然に出来・素行のいい人と悪い人と別れてしまう。悪い子達は練習やミーティングに参加しなかったり、してもあまり誠意の感じられない演技だったりする。南堂君達が注意しても直らないで、「そのくせすぐ自信を失くすから困りものだ」と彼はぼやいていた。そういう一部の子達は、あの大掃除の日にもサボったり、途中からひっそり抜け出してしまった。
「つまり、これを持って行った一年生は――」
「不法投棄場所に置いて、きっと遊びにでも出かけたんだと思います」
 私は屈んでその紙の束に触れた。何年前のものか知らないが、古い上に他のゴミと同じように風雨に曝されて、ひどく状態が悪い。もともと台本でもなかったのかもしれない。藁半紙に鉛筆で書いただけ、という草稿中の草稿というところだろうか。いろいろ書きこまれているものの、案の定、何が書いてあるのか判別しにくい。だけど――一番最後の資料を見て、時が止まったかと思った。
「鳴滝君! これ!」
「ん? ……え?」


 その紙に描かれている二人の人物は、私達とさっきまで向き合っていたあの二人だ。
 志摩子さんと、ミツ君のイラストだ。
 ラフスケッチだろうか。しかし誰かモデルがいるようで、雨に濡れた分を差し引いてなお、なかなか精巧に描かれているため、ラフとは言い難かった。いくらか情熱を以て描写された、と言えるかもしれない。その二人は何故か制服を着ている。勿論、今日の衣装と同じものだ。小さく戦国時代風の着物を着た絵もいくつかその隣にあり、裏面には設定のような記述がいくつか書かれている。だけどさっきと同じような理由で読みづらい。
 よいしょ、と鳴滝君も身を屈めぼろぼろの資料を見た。


「制服を着せて、衣装代を浮かそうとした……? みたいな書きぶり、に見える」
「あ、そうか……。
 これを書いた人が、その、尾西君が言っていた頃の制服の、清山の生徒、だったっていうことでしょうか?」
「多分、そうなんじゃないかな? まあ、遊びで着せてみただけだったりもして。これしかないもん、制服の絵」


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