「あれ? 何、君たちそんなかったい顔しちゃって」
 依然オーレは変わらぬ調子でそう言うのだからこちらが遠慮してしまう。
「オーレさん、んな物騒なこと言ったら誰だってびびりますよ」
「そうだね。ここにはハーツさんやカーレン君のような巫女さんがいるから、憚りがあるかなって思ったけど、口が滑っちゃったよ」

 しかしオーレは確信犯かつ愉快犯のようににやにや笑う。
 ハーツは興味深げにきいた。

「オーレ、君は何か力があるんじゃろう」
「ええ。僕んちは由緒ある、呪術師の家系らしいんです」
「――申してもよいか? オーレの里見に対する因縁というのは、彼の先祖がかつて、まだ安房に来る前の里見に仕えていた呪術師、なんです」
 シリウスが少し声をちぢめて言う。
「すまない、私から話してしまって」
「いいええ」
 スピカがやや臆して次にきく。

「――じゃあオーレさんは、誰かを?」
「いやいや。僕の故郷じゃ父母は村の相談役とか、子供たちの教育とか、怪物退治とか、失せ物捜しとか、そういう役割だったから。呪術って言っても名前だけみたいなもんさ。意味も広いしね。



 ――ただ、僕は、たった一人に呪いをかけているけどね」



「え――」
 意味深き言葉を、オーレは酒とともに流し込んで、ついにスピカがきき返すことはなかった。

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