ひのまつり



 シリウスが火の島に訪れ、オーレと会ったのは翌日の昼下がりだった。


 陽姫の復活を誓って髪を下ろし、僧形となった二十歳の時から三十年、彼はもう若いとは言えない五十路に突入していた。
 島はあちこちが月に一度の祭りに、うれしく楽しそうに準備をしている。他の島々からの出稼ぎや観光客がいつも以上に訪れていた。
 そして、シリウスは、あの日に南の方向へまっすぐ向かった赤い姫、カーレンと対面する。


「お、おお……陽姫に、そっくりであることよ……!」
「そうなんですか?」
 思わずこぼれ出た涙をしわが目立ち始めた指ですくいシリウスは補足した。
「いや、顔や形というわけではない。
 その、服装や、雰囲気というところだね。もうここに陽姫が帰ってきたのかと思った」
 そして、目を細くして笑う。目尻のしわが少し、優しく目立つ。
 カーレンは納得して、ふんわり微笑む。


「なあ。シリウスさんに愛称はいいのか?」
「本当だ。えっとね」
 ちょっと、とオーレが口を挟んだ。
「シリウスっていうのは元の名を改めたんだよ」
「元は天狼といいました。――旅を始めるときに、名の由来の天狼星の欧名シリウスと変えたのです。いやはや、つい、昨日のことのようだ」


 嫌な予感が、スピカにはした。


 にこにこ、カーレンは微笑を続けながら
「元のお名前がそうなら。
 えっと、カーレン、オーレさん、天狼さん、スーちゃんっと」
「しゃくにさわるっ」
 思った通りの展開で気がめいるスピカであった。

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