空に集う星



 雪が、降っていた。
 眠っていたシュリが起きて、窓を開けてみると、雪が降っていた。
 暗い夜の中で、雪がぼんやり光っているように見える。音が無く、雪が音を吸い取っているかのようだった。誰の名を叫んでも、返事が来ないような静けさに積もるのが、その白く冷たい雪だ。その冷たさは何もかもを拒絶する。
 息を吐く。体内を出た息はたちまち冷え、白く色づいた。


 花依達が和秦へ行った日から、天井の扉を開け放ったように雪がどかどか降ってきた。華北は夏も厳しく、冬も酷く冷たい、不思議な土地だ。和秦より北に位置しているから、ただ単純に和秦よりも寒いのだろう、とシュリは思っている。暖かな所へ、花依は行ってしまった。双助は、約束を残して行ってしまった。
 そんな約束を、信じないつもりでいようと努めた。舜達が帰って来たので、シュリも盗賊業に精を出さねばいけない。ちょうど、よかったのである。


 玄冬団は義賊である。貴族達の圧政に苦しむ貧しき民衆を陰で支える、正義の集団だ。貴族達が不当に彼らから奪い取った金品・芸術品――そして明日への希望を取り戻す。
 玄冬団はある人物のもとで構成された。その人物の名は尭という。その人柄の良さ、仁徳に、貧しい民衆も血の気の多いごろつき達も、皆、光を求めるかのように集まって来る。彼自身中流の貴族の出であるが、腐敗しつつある華北を何とか、圧政も隷従も無い地にしようとしている、いわば革命家である。――もっとも、シュリが知る優しくて物静かな、まるで父親のような尭には、その肩書は似合わない。
 貴族達もそれをわかっているのか、あれやこれやと尭達を上手くやり過ごす――革命はなかなか訪れない。だからいつしか人々は疲弊していく。どこかで暴力が起こり、殺戮が始まる。それの繰り返し、終わらない回廊だ。そしてシュリ達とは違う、柄の悪い、ただの盗賊も現れては生活を脅かしていく。
 一言で言えば治安が悪い。
 治安は悪い、貴族達は相変わらず無神経で無慈悲だ、花依は出ていく、頼りない約束だけが残された。


 シュリは仕事に没頭し、励んだ。玄冬団には痛くもかゆくもない雑魚の衛兵ばかりで守られている屋敷をいつも以上にめちゃくちゃにし、いつも以上に盗み、そしていつも以上に敵に暴行を働く。
 荒々しいシュリの仕事は、里を出て、華北の中心地・京安に来てからずっと続いていた。尭が悪いわけでは決してないが、革命は起こらない。華北全体が変わらなくても――華北は和秦よりずっと、ずっと広大だ――拠点としているこの京安から変わっていけばいいと願うが、事態は動かない。
 そうしてシュリは、双助が押し付けた約束や、変わらない世界に苛立ち、その苛立ちを盗賊業にぶつけていた。しかし、どこかで約束に望みをかけようとしていたシュリもいた。
 それを振り切るために無理をしていたら、シュリは倒れたのだ。
 寝かされて、そして起きて、雪を見ているのだった。


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