「太陽暦も、こんな華北の地じゃ少数の人間しか知らんもの。だーれも星座なんて正しい名前も形も知らんわいね」
そうだろう。シュリも山羊座のことは知らなかった。双助の双子座というのもまた知らない星座だ。
でもね、と玲婆は再び微笑をシュリに向けた。
「空に浮かんでたら、結びつけて見てみるんだよ。
いくら貴族でも、空も星も奪えやしないんだよ」
ほいと彼女がシュリに手渡したのはあの円盤だった。
裏面にはたくさんの点が打ってあり、線で結ばれていた。それが星座だと、何故か解る。
シュリのもとに天の星座が小さく、舞い降りたのだった。
それからだった。シュリが黒い夜空を彩る星を眺めては、何かを想うようになったのは。
貴族を襲う時は星に関係した、庶民が作ったが奪われてしまった芸術品などを取り返す、つまりは狙いとするようになったのも、それからだった。そして戦いながら、足掻きながら、シュリは自分が約束を捨てられないことを自覚していった。玄冬団の一員という自覚も確かにあった。
けれどシュリは、空にある見えない道を見る時に、何かに、確かに、双助が託した約束を胸に浮かばせるのだった。